*キミに贈る──未来*



『そーちゃんには、私の分まで幸せになって欲しいの』


 夢枕に現れた、わたくしによく似た──けれどわたくしではない女性がそう言った時。夫に先立たれたわたくしを思いやり、色々と尽くしてくれた弟を思い出した。かつて、幼い頃に、やはり"そーちゃん"と呼んでいた弟のことを。
 今では紀州の殿様となった弟に、江戸にあるお屋敷の方へ呼ばれて上京を決めたのが、ちょうどその夢を見た翌日のことだった。

「ミツバさんと、仰るのね? そーちゃんの……沖田さんのお姉様は」
「そうです。でも、莉津姫の夢になんて、何故姉は現れたのでしょう?」

 ミツバさんが夢枕に現れた時。その日は、亡き夫の3回忌でもあった。弟の幸せを思うミツバさんの魂と、夫を亡くし無気力状態が続いていたわたくしと。もしかしたら、亡き夫がミツバさんを引き合わせてくれたのかもしれないとすら思えた。

「江戸に出ることになって、警護につくのが真選組だと聞いて。実は局長さんにお願いしたのよ、一番隊の隊長さんに付いて欲しいって」
「そうだったんですか……」
「ミツバさんに、頼まれたのもあったけれど。わたくしも、そーちゃんに会いたかったのかもしれないわね。夫を亡くしたわたくしと、姉を亡くしたあなた。──やっぱり、ミツバさんに夫が頼んだのかしらね?」

 そーちゃんに聞かせるというよりも、自分に言い聞かせるように淡々と呟いて。ふと、憂い顔のそーちゃんの隣に、先程から黙ってくっついている可愛らしいお嬢さんに目をやった。

「えーと。神楽さん、だったかしら?」
「えっ。は、はいアル!」

 まさか自分が話し掛けられるとは思っていなかったのだろう。ビクッと面白いくらいに飛び上がるものだから、クスクス笑ってしまった。

「そーちゃんがね、神楽さんのことを半分諦めてしまっていたようだから」
「それも、ミツバさん、が?」
「いいえ。それは、局長さんから訊いたのよ。ミツバさんのお話をしたら、きっと、色んなことを諦めようとする弟が心配なんだろうって……それこそ局長さんも心配だったのね。訊いてないこともたくさん教えて下さったわ」

 あなたはたくさんの人に愛されているのよ。それを忘れないで。そーちゃんへの言葉が、むしろ自分に向けられた言葉のように思えて。

「神楽さん、そーちゃんをお願いね?」
「わ、私?」
「ええ。この子は、無条件で誰かに愛されることに慣れていないのね。でも、神楽さん……あなたがそーちゃんに本当の気持ちをぶつけてくれた今なら、もう大丈夫ね?」

 わたくしを見てから、赤らめた顔をちらりと隣へ。そこには、まだ半信半疑といった風なそーちゃんが立っていて。

「ねえ、そーちゃん?」
「……はい」
「一人だなんて、思わないで。あなたの周りには、あなたを思ってくれるたくさんの人がいるわ。それに、神楽さんのことも……信じてあげて。女の子はね、なかなか素直に好きって口に出せないこともあるのよ。覚えておきなさいね」

 わたくしも。政略結婚だった夫に、徐々に芽生えていた愛情をなかなか伝えられなかった。漸く素直になれて、これから子を成して2人で歩いていこうとしていた矢先の──病による死。この2人にはそんな不幸は訪れないとは思うけれど。

「ミツバさんだけじゃないわ。わたくしも、あなたの幸せを願ってる。何だかほっとけないのよね、そーちゃんって。危なっかしいというか……」
「だ、ダメアル! 沖田は私のだから、お姫様には渡さないネ!!」
「はぁっ!? な、何言ってんでィ、チャイナ! 今までのツンは何処に置いてきやがった!」
「ふふふ。大丈夫よ〜神楽さん。そーちゃんは、わたくしの第二の弟だから。心配しなくても、あなたたちの邪魔はしないわ」

 可愛らしい、女の子のヤキモチ。そんな素直な彼女の反応に慣れないそーちゃんもまた、可愛らしくて。そんな2人を見るのが微笑ましくて。


「大体、ツンデレにも程があんだろが、てめー!」
「女は素直になれない生き物なのヨ」
「素直どころか真逆の意思表示だろーが、てめーのソレは!!」
「んじゃあ……大好きアル。そ、そーご?」
「ぶっっ! おまっ……何だその爆弾級のデレっ」
「開き直ってみたアル。もう怖いモノなしネ、ここまでやっちまえば」
「やべっ……俺の身体がもたねーだろ、こんなん」
「そーちゃん、の方がいいアルか?」
「や、それは姉上限定で頼む」
「オマエがこんなシスコンだったとは知らなかったアル」

 いつまで続くのか、ダラダラ言い争う2人の周りには既にピンクのオーラめいた空気が漂っている。暫く見守ってあげたい気持ちも、もちろんあるのだけれど。

「──最後の伝言だけ、いいかしら?」
「えっ……」

 戸惑っているそーちゃんに向き直り。手のひらを、頭にフワリと乗せて。


『20歳の、お誕生日おめでとう。あなたの幸せを、誰よりも願っているわ』


 ねえ、ミツバさん。聴こえている? ちゃんと、伝えましたからね。わたくしも、いつまでも後ろばかり向かずに歩き出してみせますから。

「ありがとうございます、姉上──」

 初めて見せる、そーちゃんの涙。神楽さんが、一緒に涙ぐみながらそーちゃんの涙を指で掬い上げる。堪えきれなくなったのか、そーちゃんはそんな神楽さんを優しく引き寄せて抱き締める。

 その温もりが、きっとそーちゃんをこれからも支えていってくれる。
 そして、わたくしにとっても──そーちゃんとの出会いが前を向いて歩き出す支えになってくれる。


 もう、大丈夫よ。わたくしの愛した、今でも大好きな、ただ一人のあなた。


Happy birthday dear my brother!





最後、莉津姫視点のためか締まらない感が…。
ちょっと後日談的エピソードが浮かんだので、完成次第upします〜。わざと出さなかった副長とか。もちろん、らぶらぶになったおっかぐが一番だけど。
本編はこれで終了☆おつき合いありがとうございましたー!

'11/07/06 written * '11/07/07 up

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