*Silent Night,Holy Night_evening part

 12月24日……。街は、クリスマスムード一色。私も朝から、今夜のクリスマスパーティーの為に支度を整えていた。

「瑠宇〜。ドレス、こっちの方がいいんじゃない? 零一くんも悩殺!!」
「お母さん……。それ、母親の台詞?」

 大胆に胸元が開いた膝丈のドレスを、母はやたらと勧めてくる。でも私の場合は演奏もする訳だし、多少は動きやすいのじゃないと。

「却下」
「もうっ、仕方ないわね。じゃあ、2人っきりになったらもっと色っぽく迫るのよ? いい夜になるといいわね、瑠宇」

 だからそれが親の台詞!? 呆れる私の視線を受けて、母はペロリと舌を出す。

「まあ、ね。こんなこと、カッちゃんの前ではとても言えないけど〜」

 しつこいですが『カッちゃん』とは父のことです。

「当たり前だよ。お父さん、卒倒しちゃう!」

 彼氏がいることバレた時だって、ヒクヒク震えながら顔だけは笑ってて怖かったのだ。まあ、相手が零一さんと分かったら喜んでくれた、という不思議な父親ではあるけど。

「でもね、瑠宇」
「んー?」

 母が、不意に真面目な顔になる。

「その時が来たら、覚悟を決めるのよ。瑠宇にとって零一くんは一番大切な人でしょう? お父さんのことは、二の次でいいの」
「……それを娘に面と向かって言っちゃうお母さん、スゴイと思う」
「ふふ。私もカッちゃんとは色々ありましたから」

 ……覚悟を決めなきゃならない時。本当にその決断を迫られる時が今夜訪れようしていたなんて、この時の私にはまだ分かるはずもなかった。

。。。。。

 パーティーも終わりに近づいた頃、ずっと目で追っていた人がいなくなっていることに気づく。

「零一さん……?」

 パーティーが終わったら、連れて行って欲しいところがあったのに。もしかしたら、逃げちゃったんだろうか?
 慌てて会場を出ると、コートを着込んでいる零一さんを視界に捉えた。

「何処行くのっ!?」

 思わず叫びながら、詰め寄ってしまう。

「今日、車じゃないんでしょう? 今からパーティーを抜け出そうとしてるってことは、行き先は……」
「君は、会場に戻りなさい」
「そうはいきません。私も、着いて行きますっ!」
「瑠宇っ!!」
「だめですっ。どうせ1人で行くつもりだったんでしょ!? せっかくのクリスマスに、可愛い彼女を置き去りとかありえません!」

 ジーッと、上目遣いで見上げる。零一さんが、この顔に弱いことを知ってるから。

「はぁ……全く、君には」
「敵わない、でしょ?」

 零一さんは頷く代わりに、苦笑しながら軽く頭を突付いたのだった。


「そんで? 結局押し切られた形でここに来た、って訳かい」
「ふふ。そうなんです」

 まだ苦虫を潰したな顔のままの零一さんの代わりに、私が答えてあげた。

「何だかんだ言って、零一は瑠宇ちゃんには逆らえないんだよね。そもそも、最初から無駄な抵抗だったんだよ」
「もう、何とでも言ってくれ……」

 ジャズバー・CANTAROUPE。零一さんの親友であるマスターさん(益田さんというらしい)の経営するお店。
 以前、イブには毎年ここで零一さんがピアノを弾いてるって聞いたことがあったのだ。今年はパーティーの後で、時間もかなり遅いからと言って、最初から私がここに来ることは問題外にされた。
 でも。そんな貴重な機会、逃さない訳がないっ!! 私が来たがってることもバレバレで、零一さんは撒いてでも来るつもりだったみたいだけど……。

「にしてもな〜。何でお前、そんなに瑠宇ちゃんがここに来ること反対するんだよ?」

 そうそう。しかも頭ごなしで、理由もちゃんと言ってくれないんだから困ったものだ。

「──彼女は未成年だ。酒が当然のように出る場所に、俺が連れて来るはずがないだろう?」
「へぇ〜。ホントにそれだけかぁ?」
「そうだっ!!」

 だとしても、私がお酒を飲まなきゃ済むだけの話ではないか。そんなにお店の雰囲気だって悪い訳じゃないのに。むしろ、いい感じだし。

「どうせ、女目当てで来る柄の悪い奴らに瑠宇ちゃんが絡まれるのが嫌なだけなんだろ?」
「……へっ?」

 零一さんが無表情のまま、無言になる。

「うんうん。瑠宇ちゃん可愛いからね〜。気持ちは分かる」
「もういいっ。黙れ!」
「私、どんな人に絡まれても零一さん以外には興味ないよ?」
「瑠宇、君まで……」

 はあっ、と大きな溜め息をつく零一さんを見て、私とマスターさんは顔を見合わせて笑ってしまった。

。。。。。

 鳴り響く、ピアノの軽快なリズム。クリスマス用にアレンジしたメロディーは、店内のムードを一気に盛り上げていく。

「う〜っ。私もなんかずうずしてきたっっ!」
「おっ。何なら飛び入りするかい?」
「いいんですか!?」
「瑠宇ちゃんがいいなら問題ないさ。俺も零一と君の息の合ったプレイ、見てみたいからね」
「はいっ」

 フルートを片手に、零一さんの隣へ駆け寄る。

「瑠宇っ!?」

 目を見開く零一さんに目配せをした。
 “いいから、楽しく演奏しよう?”
 そして……即興にも関わらず、私たちの演奏は大きな拍手の中に包まれたのだった。

「いや〜、さすがじゃないか。瑠宇ちゃん、ジャズもいけるんじゃないか?」
「そうですか!? フルートが吹けるならクラシックに拘るつもりはないんですけどね。ちゃんと勉強はしとかなきゃ、って思って」
「うん。偉い偉い。瑠宇ちゃんはちゃんと将来のこと考えてるんだよね」

 マスターさんが、よしよし、と私の頭を撫でてくれた。

「そうだな。適当に世の中渡り歩いているお前とは違うだろう。……益田、誰が瑠宇の頭を撫でてもいいと言った?」
「うわっキッツー!! 親友にそういうこと言うかね……ついでにどんだけ嫉妬深いんだよ、お前」

 何か、いいなぁ〜。素の顔を見せる零一さん。私の前以外じゃ、滅多に見られるものじゃないから。大体、ここに来たかったのだってそれも大きな理由だったりするのだから。

「あ、マスターさん。喉渇いちゃったんですけど、何かもらえますかー?」

 演奏後だったのもあり、さすがに何か飲みたくなってきた。

「おっ。だったらとっておきのを作ろうかな? ちょっと待っててね」

 数分後。私の前には、水色の綺麗な液体の入ったオシャレなカクテルグラスが差し出された。

「うわ〜キレーですね! 飲んでいいんですか?」
「もちろん。どうぞ、お姫様」
「益田……!? お前、それっ」

 ゴクン。躊躇いなく、勢いよく飲み干した。

「スッゴク美味しい!!」
「ほんのちょっとだけ、アルコール入ってるんだけどね、酔う程の量じゃないから。結構いけるだろ?」

 この馬鹿者!! と叫ぶ零一さんの声が、少し遠くに聞こえる。

「はい〜。すんごく気持ちいいれすっ!! ふわふわしますぅ〜」
「あ、れぇ?」
「うふふふふ〜」

 何かね、スゴク気持ちがいいの。空を飛んでるみたいな感覚。

「瑠宇!!」

 ん〜、でも何か眠いかも〜。

「嘘だろ……アルコールったって、ホントの微量だぞ?」
「……彼女には、アルコール分解成分というものがまるでないようだな」
「な、何だよ。睨むなよっ!!」
「殴りたいくらいだ。これから家まで送り届けなければならないというのに……全くお前ときたら後先考えずっ」

 遠くで、言い争う声が聞こえる。でも、それも夢の中のように……ふわふわ、私の意識は揺られていた。

 ゆらゆらゆらゆら──とっても、いい気分。



────to be continued!!


2016,March,2nd. ; rewrite @ Ruri.Asaoka.


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