*嫉妬、ヤキモチ、そして

 ──断られてしまった。

 慢心していたつもりはない。彼女が自分に向けてくる気持ちは明白であったし、自分も人前では隠しきっていても彼女の前でだけは素直に想いをぶつけていると思っていた。……つもりだったのだが、伝わっていなかったというのだろうか。
 堂々巡りする思考を打破すべく、取り敢えずは冷静になってみることにした。
 まさか、10も下の少女にこれほどまでに振り回されるとは。教師になってから思ってもみないことだった。恋愛対象、という言葉すら生徒相手に考えてみたこともなかったのだと、今更ながら気づく。それだけ、彼女……榊瑠宇は、俺の中で稀有で特別な存在なのだろう。
 教師としての自分にとっての修学旅行は、特に楽しみにしている場所がある訳でもなく、淡々と引率の仕事をこなすだけのもの。京都、というだけで何の感慨がある訳でもない。2年生の担任にならなければ引率することはあまりないのだからそんなに多い訳ではない。だが、学生の頃に訪れたことも数えればもう片方の手の指はなくなる程なのだ。
 しかし。好意を持つ相手との旅というのは、やはり違う気もする。そんな年でもないし、自分らしくない気もするが。いや。だが、しかし。とにかく思考は初めに舞い戻る。
 ──何故、榊は自由行動を共にすることを断ったのか。
 自分で思うよりも彼女に心底骨抜きにされているのだと理解し、同時に落胆する。断られた理由は、何だったか? 約束している人がいる……だったはずだ。だが、彼女の親友である藤井は、姫条と回ると騒いでいたはずだ。(榊がからかっているのを見た)では、一体誰と? まさか……葉月に誘われて、いや、だが、それは。
 学業の傍らモデルもこなす葉月珪。彼が榊を想っているのは、多分想われている榊本人以外になら周知の事実。その葉月が彼女を誘っていて、それを拒まなかったとしたら……。
 そんな筈はない。これでは彼女の気持ちを疑うようなものではないか。

。。。。。

あ、えっと、はい。回るというか、約束してる人がいて……。あの、もしかして先生、自惚れじゃなかったら、さ……誘って下さってるんです、か?

そ、そんなっ。だって、先生に誘ってもらえたのに断るなんてもったいないですっ。

……うぅっ。でも、先生にしたら、私に約束してる相手がいても、気にならないんですか?

ご、ごめんなさいっ。変なこと言っちゃって! あ、それに先生だって忙しいですよね? 仕事で来てるんですもん。

ですよね……。私はせめて先生に迷惑だけはかけないように気をつけて歩きますねっ。道に迷ったりもしないように頑張りますっ!

。。。。。

 どうしても気になる。彼女の約束の相手が知りたい。そう思い立って、自分が朝一番にしたことといえば……。

「やっぱりヒムロッチも気になるっしょー!? アタシもさ〜どうしたもんかと思ってたのヨ。まさかの第三の男登場っ! ヒムロッチピンチじゃん、ってもんでさぁ〜」
「君に話しかけた時点で自分が間違っていたのは分かっているつもりだが、せめて最低限の敬語ぐらい使う気はないのか、藤井?」

 溜め息混じりに呟いてはみるが、当然耳には入っていないようだ。
 話によれば。約束の相手が男らしいことと待ち合わせの場所は掴んでいるようで、尾けてでも榊を追いかけるべきだと強く意見してくる。……そして邪魔をしろと言う。大人気ないにも程があるではないか、それでは。

「下手なプライドなんて捨てなきゃ男じゃないっ! それともあの子が他の男のモノになんの、指加えて見てるつもりぃ〜?」
「……君に乗せられるのは癪に触るのだがな。確かにプライドがどうこういった問題でないのは、私も理解しているつもりだ」
「そうこなくっちゃ!」

 後は、知っての通りだ。恥も外聞も、教師としての威厳もあったものじゃない。
 榊が喜んでくれたのだから、後から絡みまくってきた頭の弱い二人組(藤井と姫条)がどれだけうっとおしかったとしても……仕方がない、と流すことにしよう。



────Is it envy or a jealousy?

(繋いだ手から、この気持ちが伝わるだろうか)

(心から、君を、愛している)


2010,February,5th. → 2011,April.26th. ; rewrite @ Ruri.Asaoka.@ Ruri.Asaoka.

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