―――あぁ、えと、なんかさ、お前…甘い匂いするな、と思って、つい手首掴んじゃった
―――んー…なんつーか、お菓子とかとはなんか違うんだけどよ…こう、引き寄せられるような…?
―――まぁ、よくわかんねぇけど、とにかく甘い匂いなんだよな
「…っ!」
深夜三時。まただ…また、奥村燐と初めて喋った時の夢を見て目が覚めた。
奥村燐と喋ったあの日から、私は毎日この夢を見るようになった。
最初は気にしていなかったけど、日を増すごとに何故だか怖くなってきた。
まるで、私に何か知らせようとしているみたいに、毎日毎日同じ夢。
信じたくないけれど、もしかして。
私は二台あるパソコンの電源を両方とも入れ、カタカタとキーボードに指を打ち付ける。
とにかく、正十字のパソコンに侵入して確かめなければ。
今はパソコンの時代だ。
きっと古い書物や重要なデータなども全部パソコンに入っているはず。
ならば、手掛かりもきっとある。
いくつものセキュリティーを解き、中に入ったらハッキングした痕跡を残さないように素早く元通りにしていく。
そしてそれを繰り返し莫大な数のデータの中から私の求めるデータを探す。
「これと…それもか…」
とにかく気になったヤツは片っ端からコピーしていくことにした。
かなりの枚数になってしまったけれど、これだけデータがあれば手掛かりもいくつか見つかるはずだ。
パソコンの電源を落とし、ソファーに腰をかけて一枚ずつ隅から隅まで読んでいく。
目を通し始めて数十分が経った頃だと思う。
「…ああ、なるほど」
そういうことか。
まぁ簡単に説明すると、私からする甘い匂いというやつは悪魔にか感じられないらしく、その匂いを嗅ぐと何故だか庇護欲や保護欲が湧くらしい。
だからあのとき魍魎たちが助けてくれたり、サタンの落胤である奥村燐から甘い匂いがすると言われたのか。
うん、まぁ、あれだね、見事に全くもっていらない特殊設定だ。
本当、余計なことしてくれちゃって。
「ははは、」
ああ、渇いた笑いしかでてこない。
とにかく、厄介であろうメフィスト・フェレスにはこのことを知られないようにしなくては。
もう、なんなんだ、私はただ、平凡に生きたいだけなのに、どうしてこんな、なぜ。
ああ、くそ。
この世界にきて、初めて腹が立った。
望んでないのに
(ああ、やっぱり上手くいかないな)