明日晴れるかな | ナノ


私には、わからないことがあった。


「名前ー」


そう。
なぜか、なぜだか、奥村燐に懐かれてしまった(ような気がする)。
事の発端は昨日の帰りのことだ。
いつものように荷物を纏め、さっさと帰ろうとしたときに奥村燐とすれ違った。
それだけなのに、なぜかすれ違いさまに私の手首を掴んだのだ。
勿論私は奥村燐を見た、が、何故か私だけではなく手首を掴んだ奥村燐まで驚いていていて、しばらく二人で無言で見つめ合ってしまった。


「あの…なにか?」
「えっ、あ、いや…」
「じゃあ、手を離してくれませんかね」


作った苦笑いを浮かべると、奥村燐は焦ったように、申し訳なさそうに手を引っ込めた。
いったいなんなんだ。
帰ろうと思ったが奥村燐はなにか言いたげに私を見ていた。
言いたいことがあるのならば、いつもみたいに言えばいいのに。


「なにか、ご用でも?」
「あぁ、えと、なんかさ、お前…甘い匂いするな、と思って、つい手首掴んじゃった」


香水でもつけてるのか?と首を傾げる奥村燐。だが、私は香水などつけていないし、お菓子や甘いものの類いは今は持ち歩いていないから否定しておく。
だが、なぜ甘い匂いがするんだろうか。
不思議だ。
もしかして新手のナンパかなにか?


「甘いって、具体的にいうとどんな感じの匂いかわかる?」
「んー…なんつーか、お菓子とかとはなんか違うんだけどよ…こう、引き寄せられるような…?」


…だめだ、さっぱりわからない。引き寄せられる匂いってどんな匂いだよ。
どうやら彼は説明が下手なようだ。
頭を抱えて唸っている奥村燐を見て心の中で溜め息をついた。


「まぁ、よくわかんねぇけど、とにかく甘い匂いなんだよな」
「あはは、そう…、なんだ」
「ところでお前、名前はなんていうんだ?」


…さて、どうしようか。
名前を聞かれたが、正直答えたくない。私はキャラクターと関わりたいわけではなく、あくまで傍観していたいんだ。
でもここで答えなかったら余計に怪しまれるか。まぁ必要以上の干渉さえしなければいいことだし。


「…苗字名前だよ」
「苗字か…」
「そう。君は?」
「ああ、俺は奥村燐だ!」


ニカッと人懐っこい笑みを浮かべる奥村燐。
このあと、すぐに別れたが、何故か次の日から話しかけてくるようになった。
なんだか懐かれたように感じる。
やっぱり、あのとき名前を教えなければよかったのかもしれない。
さっさと帰っていれば、といまさらながら遅すぎる後悔をした。
ああ、ほら、また喋りかけてくる。
しょうがない。離れてもらうか。
とにかく会話することに疲れてきた。


「ねぇ、奥村くん。今日、悪魔薬学の授業で小テストあるのに、勉強しなくていいの?」
「げ、そうだった…。お、俺、ちょっと勉強してくるわ!」


やった、成功。
彼は少し青くなった顔を引き攣らせ焦ったように元の席に戻り、教科書を開いていた。
まったく単純で扱いやすいなあ。
さて、私も勉強しなくちゃ。




ああ、もう、とにかく
(放っておいてよ)


 


 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -