明日晴れるかな | ナノ


「新入生代表――奥村雪男」


はいっ、と大きな返事をして立ち上がった彼を見て感動を覚える。
生のキャラクターを見たんだから、大ファンじゃなくても感動するだろう。
そんなことを考えながらぼーとしていたらいつの間にか入学式が終わっていた。
帰っていく人だかりを横目に私は人気のない場所へ向かい、案内の封筒に同封されていた塾へ行くための鍵であろうものをそこにあった古びた扉に差し込んだ。
扉を開いて見れば、そこにはいつか漫画で見た大きくて高い扉が等間隔に並んでいた。


「たしか一年生は一一○六号教室だったよね、」


一一○六と書かれている扉を開けるが、中にはまだ誰もいなかった。
(もしかして一番乗り?)
やったね、と思いながら後ろのほうの席につき、鞄から本を取り出す。
こんなこともあろうかと時間潰しのための小説を持ってきといてよかった。














しばらくしてからバタン、と扉が閉まる音にハッとした。
あれからどれだけの時間が経っただろうか。
私は一度本を読むことに入り込んでしまうと、周りと完全にシャットダウンしてしまう癖がある。
辺りを見渡すと、もう人が集まっていていた。
漫画で見たことのある顔がいくつもある中、真ん中の一番前の席に座る一人の少年を見つけた。
奥村燐。
漫画で見るより立体的だ。
まぁ、当たり前だけど。
あれが、この物語の、いや、この世界の主人公か。

そしてもう一人の主人公が入ってきた。


「席について下さい。授業を始めます」


奥村雪男。奥村燐の双子の弟。
奥村燐は立ち上がり、不思議そうに驚いていた。
漫画で見たことがあるそのやり取りに、再び感動。
その様子をじっと見ていたら、後ろを振り向いた、犬…もといメフィスト・フェレスと目が合ってしまった。
咄嗟に反らしてしまったが、もしかして今ので怪しまれたかもしれない。
まぁ、そのときはそのときだが。


「まだ魔障にかかった事のない人はどの位いますか?」


ああ、そういえば、私は魔障を受けていないのに悪魔が見えるらしい。
と、いっても今日初めて見たのだが。
なんだっけ…あの、小さくて黒くて、いっぱいいるちょっと可愛い悪魔。
魍魎、だったっけ?
とにかく、目覚めたらそれがふよふよと浮いていて、思わず叫び声を上げそうになったのは記憶に新しいことだ。


「悪魔!」


再び私がぼうっとしていると、今度は叫び声が私の意識を呼び戻した。
ハッとすると抜け落ちた天井から、悪魔らしきものが飛び出してきて、奥村雪男が子鬼だと呟きながらそれを素早く撃ち倒していた。


「…っ」


どうしようか。
いざ狂暴な悪魔を目にすると、怖くて怖くて、足が震えて動けなかった。
だがそれだけではない。
目の前で起こっている有り得ない状況に私の目線と興味は釘付けだった。
皆が外へ避難するなか、私は立ち尽くしていた。
そんなとき。
教室に漂っていた何匹もの魍魎が私の服に噛み付き凄い力で引っ張って行った。
当然私は倒れないように足を前に出す。
そしてそのまま教室の外へ出た。
(もしかして、助けてくれた?)
そんな馬鹿な。
なぜ、使い魔でもない魍魎が私を助けるんだ。
なんのメリットもないじゃないか。
しかもむしろ私は敵なはずなのに。
それなのに、どうして。
もしかして私がこちらの世界に来たこととなにか関係があるのだろうか。


「なぁなぁ、そこの君」
「え?」


また、意識を戻された。
今日は初めてのことが多すぎるのか、考えたりぼーっとしたりすることが多い。
話しかけてきたのは、ああ、確か志摩…廉造だったかな。


「かいらしいなぁ!名前教えてくれへん?」
「え…いや…」
「っなんしとんねん!」
「すんまへん、気にせんといてください」
「はぁ…」


なんだったんだ…。
それはわずか何十秒の出来事だった。
志摩廉造の頭を勝呂竜士が叩き、三輪子猫丸が小さい頭を下げ謝り、志摩廉造を引きずって私から離れていった。
一体何をしたかったんだろうか。
……まぁ、いいか。
志摩廉造たちとの変なやり取りがあってから少し経った頃に、閉まっていた教室の扉が開いた。


「すみませんでした皆さん。別の教室で授業再開します」


出てきた奥村雪男と奥村燐は、なんだかスッキリしたような顔をしていた。
一体彼らになにがあったのか。
どうせなら中の状況を傍観したかったな、とぐちゃぐちゃになっている教室を見た。




始まり、始まり
(彼らは役者、私は傍観者)


 


 

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