明日晴れるかな | ナノ


今日は任務のためにメッフィーランドとかいうふざけた、というかムカつく名前の遊園地に来ていた。
シュラに少しずつ歩み寄ってみろと言われて早数日が経ってしまったけれど、心は確かに軽くなったが、未だにあまり進歩はない。
と、いうよりも、どう歩み寄ればいいのか分からないのが本音だったりする。
前みたいに向こうから話かけられた時のみ対応すればいいのか、それとも私から話かけたほうがいいのか。
でも待っているだけでは歩み寄ったことにならないのかな?
難しい。テストより難しい。
これには正式な答えなんてないから自分で導き出したものが答えとなる。


「苗字さん」
「あ、はい」


ちなみに任務内容はメッフィーランドで多々目撃されている霊の捜索の手伝いで、訓練生同士ツーマンセルに分けられたのだが、人数的に余ってしまった私は特別に奥村雪男…じゃなくて奥村先生と捜索することになった。
本音を言うとシュラとやりたかったけどこれも歩み寄るチャンスかもしれない。


「少しお話しましょうか」
「え?あ、はい」
「塾には慣れましたか?」
「ええ、まあ」
「それは良かったです。それにしても苗字さんはとても優秀ですね」
「そんなことありませんよ」
「謙遜しないでください。とくに悪魔薬学では優秀な成績なので教えてる僕も嬉しいです。それに訓練生認定試験のときのしえみさんに対する的確な処置には皆さん驚いてましたよ」


にこりと優しい笑顔でこうもベタ褒めされると、やっぱり何だか照れてしまう。
…奥村先生はとても人を良く見ているけれど、でもそれは、私と同じで臆病だからだと思う。
今から関わるこの人間が、敵か味方か、はたまた傍観者か。
それを見定めなければ怖くて怖くて怖くて仕方ない。


「…奥村先生も凄いと思いますよ。その年齢でもう中二級祓魔師だし、文武両道、容姿端麗で周りらの信頼も厚い。なにより、……誰かを守れる人だから」
「え、」


私の言葉に、奥村先生が何か言いたそうな顔をしたけど、何か大きな音がしたためにそれは遮られて、私と奥村先生の視線は自然と音のしたジェットコースターのほうに向けられた。


「なんだあれは…」
「なにかあったんですかね…?」


ジェットコースターはかなり派手に壊されていて、それは遠目からでも確認できるほどだった。
奥村先生も私も不信に思い眉間にシワを寄せジェットコースターを睨みつける。
そして今度は、少し強めの地震が私たちに襲い掛かった。


「うあっ…!」
「大丈夫ですか!」


いきなりのことによろけて転びそうになってしまった私を奥村先生が抱き留めてくれたおかげで倒れずに済んだ。
ひとまず地震が終わるまでその体制だったが、こんな事態なのに恥ずかしがっているほど私は乙女ではない(普段だったら照れていたかもしれないが)。
地震が終わり私と奥村先生は目を合わせて、ジェットコースター向かうことにした。

























「大丈夫ですか!?」


途中で合流した椿先生とともにジェットコースターに駆け付けたが、そこはもう悲惨だった。
ジェットコースターの崩れた部分が地面に落下していて、何故か奥村燐…じゃなくて奥村くんもボロボロな状態。
一体なにがあってどうなったらジェットコースターも奥村くんもこんな状態になるのだろうか。
奥村先生もわけのわからないといった表情で兄である奥村くんに聞こうとしていたが、それを邪魔したのはシュラだった。


「遅ぇぞ雪男。お前が遅いからこっちが動くハメになったろーが」
「…………!ま…まさか」


どうやら奥村先生とシュラは知り合いらしく、シュラの声でシュラだと気付いたらしい。
奥村くんは先程の奥村先生のようにわけのわからないといった顔をしている。
シュラはこの格好に飽きたと言い、パーカーを豪快に脱ぎ、胸を潰すために巻いていた晒しを取った。
奥村先生は冷や汗をたらし、奥村くんと杜山さんはきっと胸の大きさに驚いて顔を真っ赤にしている。


「アタシは上一級祓魔師の霧隠シュラ。日本支部の危険因子の存在を調査するために正十字騎士團ヴァチカン本部から派遣された上級観察館だ」


唖然とする先生たちだが、シュラは椿先生に祓魔師ということを証明するための免許と階級証を見せていた。
どうやらシュラは奥村くんに用事があるらしく、奥村くんの首を小脇に抱え、奥村くん以外の訓練生を帰し、奥村くんだけを日本支部基地に連れていくらしい。
杜山さんが何か言ってるけど…どうして奥村くんだけなの?


「っシュラ!」


きっと、嫉妬と呼べる感情だと思うけど、とにかく真っ黒な感情が私を支配して、私はシュラに思いっ切り抱き着いた。


「おー、名前。怪我無かったか?」
「もちろん無かったよ。シュラは?」
「ねぇに決まってんだろ」
「良かった…」


私がシュラに抱き着き、シュラが空いている手で私の頭を撫でてくれて、その状態のまま然も当たり前のように会話をしてるんだけど、なぜか周りの人達は不思議そうな視線を私たちに向けてきた。


「えっと…シュラさんの苗字さんは知り合い…なんですか?」
「はい、そうですよ」
「…どういったご関係で」


「シュラは…私の大事な人です」


雪男の問いにそう答えた瞬間、先生たちやいつの間にか集まっていた塾生たちが「えっ」と言いながらピシリと固まってしまった。
廉造が「名前ちゃんてそっちの人やったん!?」とか半泣きで騒いでるけど、どうしたんだろう。
皆にも大事な人の一人や二人くらい居るだろうし、何をそんなに驚いているんだか。
今度は私が不思議そうに首を傾げていると上からシュラの溜め息が聞こえてきた。


「なーに勘違いしてんだ。名前は家族的な意味で言ってんだよ。なあ、名前」
「え、うん、そうだよ。それ以外にどんな意味があるの」


どこからともなく安心したような溜め息が聞こえてきて、小脇に抱えられている奥村くんはなぜか疲れきった顔をしながら「良かった…本当に良かったぜ」とかなんとかと呟いている。


「さ、名前は先に寮に帰ってろ」
「…………」
「はあ…後からお前んとこに行ってやるから、な?」
「…わかった。絶対来てね待ってる。もし来なかったら泣くからね」
「へいへい」


ひとまず後から来てくれるらしいから、シュラに抱き着いてる腕を解く。
何故かシュラが「やっぱりそんな関係なんじゃ…」とか呟いていた奥村先生の頭を叩いていた。
そして私たちは、奥村先生に言われた通りに寮に戻ることになった。


「名前ちゃんとあの巨乳のお姉さん、ほんまに何の関係もないん?」
「…いや、家族みたいに思ってるけど」
「そんなら良かった。ウフフな関係やったらどないしよかと思うたわ」


何故か帰りに廉造がいつもより絡んできたけど、そんなにシュラのこと気になったのかな。
確かにシュラは美人だしスタイルいいし強いけど、シュラを廉造にあげる気はさらさらない。





解けていく誤解
(あと、もう少し)



―――――――――
ちなみにヒロインは多少鈍感かも知れませんが、基本的には自分に恋愛感情を持っているとか有り得ないし自分なんて好かれるわけがないと思ってるだけで、告白すればちゃんと悟ります
それとヒロインが燐たちを心の中でフルネームで呼ばなくなったのは、けじめみたいなものです


 

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