明日晴れるかな | ナノ


「無事全員候補生昇格…おめでとうございまーす!」


ぽんっと紙吹雪などを散らしながらハートを飛ばす勢いでそう言ったメフィストに塾生たちは安堵と歓喜の声を上げて喜んでいた。
そしてその流れで私たちはもんじゃ焼きをご馳走してもらうことになったのだが、ぶっちゃけ金持ってるんだからもっと高級なものをご馳走してもいいと思う。
金持ちのくせに意外と庶民的なんだな。

















ジュゥゥウ…とヘラで鉄板に押し付けると香ばしい匂いが漂ってきた。
みんなグチグチと言っていた割には楽しんでいるようでワイワイと騒いでいる。
ある程度焦げのついたもんじゃを口に含み味わう。うん、美味しい。


「名前ちゃーん、ラムネ飲みます?」
「あ、うん、もらおうかな」
「りょーかいです、ほい、どーぞ」
「ありがとう」


志摩がラムネを私に渡すと、もう一本持っていたラムネもテーブルに置き志摩は隣に座った。
どうやら私の隣で食べるらしい。


「なぁー、名前ちゃん」
「はい、なんですか」
「名前ちゃんってさあ、俺のことなんで呼んでる?」
「えと…志摩、くん」
「うーん…それやめへん?」
「え?」
「なんや堅苦しいやん。廉造でええよ。あ、廉くんとか廉ちゃんとかでもええで!」


そのほうがかいらしいしー、と締まりなく笑っている志摩を見つめる。
名前か…そう考えるとこの世界に来てシュラ以外の名前を呼んだことがないな。
だとしたら志摩が初めてになるのか。


「れん、ぞう」
「!」
「廉造…で、いい?」


首を傾げて聞いてみると、志摩がピタリと動きを止めて固まってしまった。
目の前で手を振ってみるとハッとした志摩………、廉造は私の手を握り締めた。


「えっと、」
「もお!名前ちゃんってほんまにかいらしいなあ!!」
「えっ、まっ」


がばり、と私に抱き着いてきた廉造に戸惑いを隠せなかった。
私は確かに表情を作るのが得意だけれど、男に全く関わりがなかった私が抱き着かれるという行為に慣れているわけがなく、顔に熱が集まるのを感じた。
もうどうすればいいかわからなくて、あたふたしていたら鋭い殺気を背後に二つ感じた。


「「志摩ァ…」」
「え、ちょ、坊、奥村くん!落ち着いて、な!」


バッと勢いよく私から離れた廉造は冷や汗をダラダラと垂らしながら弁解をしていた。
だけどそんな弁解も虚しく、奥村燐と勝呂にそれぞれ一発ずつ殴られて三輪に泣きついて三輪と奥村雪男に呆れられていた。
そんな様子を呆然と見ていると後ろから二人が話し掛けてきた。


「苗字さん大丈夫やったか?」
「他に何もされてねぇよな?」
「あ…うん、大丈夫だよ。二人ともありがとうね」
「気にすんなよ」
「あれは志摩が悪いからな。また何かされたら言うてな。力ようけシバいとくえ」
「あ、俺も殴り倒してやるからな」


坊も奥村くんも酷い!、と向こうのほうから涙声が聞こえてきたものの、二人はそれを綺麗にスルーしていて廉造はまた三輪に泣きついていた。
とにかく苦笑いをしておく。
騒いでいる皆を見ていて、ふと思う。

なんだか私は絆されているような気がして、私が私じゃないような気がして、とても怖い。
今まではシュラだけが私の世界だった。
シュラが全てで、シュラだけが私を愛してくれていた。
それまではシュラ以外、みんな私を拒絶したからシュラ以外に心を開くことはなかったけれど、祓魔塾に来てから私は一度も拒絶されたことがなかった。
みんな私に優しくしてくれて、話し掛けてきてくれて、そりゃあ奥村雪男は微妙な態度だけれど、私を完全には拒絶しなかった。
だからこそ怖い。
私の世界にシュラ以外の人間が入ってくるのが、とてつもなく怖い。
今まで経験したことがないことだから、もしかしたら入ってくるだけ入ってきてぐちゃぐちゃとに掻き混ぜられて壊されてしまうのではないかと思ってしまう。
そんなことをするような人達じゃないとは分かっているけれど、もし、私の本性を知ったら。
私の本性はこんなお利口さんじゃなくて、もっと黒くて、もっと汚い。
そんな私を知ってしまえば、この人たちは何て思うのだろうか。

なぜだかそれ以上は考えたくなくて、思考回路を掻き乱すように首を振ってもんじゃを一口頬張った。
そして飲み込むと同時くらいだった。
私の携帯が鳴ったのは。
席から立ち上がり、一言断ってから店の裏に行って通話ボタンを押す。


「はい、もしもし」
『苗字名前さんですね』
「…理事長ですか」
『おや!よく分かりましたねえ』


電話の相手は理事長であるメフィスト・フェレスだった。
まず第一に気になった、どうして私の電話番号を知っているのかを問うと、適当にはぐらかされてしまった。
まあ答えるとも思ってなかったけれど。
しかしまあ、どうして同じ場所にいるのにわざわざ電話してきたのか。


「理事長たる人がいち生徒の私に何かご用ですか」
『まあまあ、そう警戒しないで下さい』
「用件をお願いします」
『怖いですねえ。まあいいでしょう。明日、何時でもいいので理事長室へ来ていただけますか』


――ついにこの時が来たか。
メフィスト・フェレスという悪魔はとても鋭いとおもう。
いつかは私の異質さに気付いてそれを確かめる日が来るだろうと薄々感づいていた。


「…ええ、わかりました。明日伺わせていただきますね」
『ありがとうございます。美味しいお茶とお菓子を用意してお待ちしてますね』


それからしばらく閉じた携帯電話を眺めていた。
勝負は明日。




静かに主張が始まった
(勝つか負けるか)
 


 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -