明日晴れるかな | ナノ


勝呂と三輪がそれぞれ詠唱している中、私と志摩はそれぞれ武器を構えていた。
屍がもうすぐそこまで来ていて、正直言うとかなりピンチだ。
だがそんな状況を更に追い詰めるように杜山さんが力尽きて倒れてしまった。
やっぱり屍の体液が効いたか。
木のバリケードが無くなり、グロテスクな屍の体が露わになる。
みんなが焦るなか、私と神木さんは倒れた杜山さんに近付いた。


「…ちょっとあんた…ま…まさか死ん…!?」
「う……かみきさ…」
「杜山さん、大丈夫ですか」


着物の袖をめくり、先ほどと同じように聖水と軽い麻酔を入れた注射器の針を腕に刺す。
杜山さんが途切れ途切れに神木さんに心配そうに語りかけているが、私は何も口に出さずに杜山さんの治療を続ける。
消毒液と聖水を垂らした脱脂綿で屍の体液をゆっくりと拭き取る。
そして神木さんはどこかふっきれたような顔をして使い魔を呼び出していた。


「苗字、さん…」
「ん、どうした?」
「ありが…とう…ね」
「どういたしまして。後は任せてゆっくり寝るといいよ」


うん、と返事をすると麻酔が効き杜山さんが眠ってしまうのと同時に部屋の明かりがついた。
ひとまず杜山さんを少し隅に移動させてから寝かし、勝呂たちの方を向くと、ちょうど詠唱によって倒されていた。
安堵によってか全身の力が抜けたように床に座り込んだ勝呂は今さらの恐怖にテンパっていると、騒がしい足跡と共に部屋のドアから奥村燐が勢いよく入ってきた。


「おい!、ぶ…無事?」


うん、奥村燐は元気そうだな。
怪我もたいしたことなさそうだし。
ちなみに私以外の人はピンピンしている奥村燐を見て驚いているみたい。
そりゃあ訓練生が中級以上の悪魔を一人で相手して生きて帰ってきたら、誰だって驚くか。
奥村燐にラリアットをくらわせている勝呂を見て、くすっと小さく笑った。
そういえば、と思いシュラを見ると平気そうな顔をしていたので取り敢えず安心する。


「これは…」


シュラの元に行こうとした時に奥村雪男とネイガウス先生が入ってきた。
奥村燐はネイガウス先生を見て何故か驚いていて、何かを訴えようとしたときに天井裏から降りてきたメフィストに踏み潰され、言葉を遮られていた。
みんなが唖然とするなか、メフィストは軽い口調でお疲れ様ですと言っていた。


「この私が中級以上の悪魔の侵入を許すわけがないでしょう!」


パチンとメフィストが指を鳴らすと部屋のいたる所から祓魔師の先生たちが出てきて、みんなは驚いていた。
奥村燐に至っては頭がついて行かずにハテナを頭上に浮かべている。
そこで奥村燐以外の塾生たちが気付いたようで、まさか…と声を漏らしていた。
やっぱり私の読みは当たってたかな。


「そう!なんと!この強化合宿は候補生認定試験を兼ねたものだったのです!」


思わず溜め息をついてしまった。
今思い返すだけでも面倒臭い。
ああ、麻酔と聖水を消費したから後からまた買い足しとかないと。
面倒臭い、面倒臭い、面倒臭い。
まだメフィストが何か言っているけど頭に全く入ってこない。
























保健室へと移動した私たちは奥村燐以外、点滴をしてながらそれぞれ思うことを口にしていた。
怒ってる人もいれば後悔している人、悩んでいる人もいる。
ちなみに私は倦怠感が酷い状態で志摩と三輪が座る後ろで倒れ込むように寝転がっている。
どれだけ私は面倒臭がり屋なんだか。
でも三日くらいは本気で動きたくない。

…でも、なんで私は屍が怖くなかったんだろうか。
前は小鬼程度で動けなくなっていたのに、中級以上の屍を前にして我ながらかなり冷静だったと思う。
やっぱり記憶を取り戻したお陰なのか。


「でも名前ちゃんがあんなこと言ったのは意外やったなあ」
「え?………あ、」


志摩の言葉に最初は意味がわからなかったが、その意味に気付くと私はバッと神木さんを見る。
そうだ、私怒りに任せて神木さんのプライドを傷付けるようなことを言ったんだっけ。
まあ本音だけどさ、本音だけど…
謝らないわけにはいかないよね。
だって彼らはまだ子供なのだから別に焦って大人になろうとしなくていい。
それに気にしないように振る舞っているけれど神木さんは私の言葉を気にしているだろう。
神木さんはそういう人だ。
なにか変わるきっかけがあるまで他人の言葉を引きずる癖がある。


「神木さん、ごめんね」
「はあ?な…、なにがよ」
「酷いこと言った。あれは気にしなくていいよ。神木さんは神木さんだもんね、だから他の人にならなくていいからね」
「…っ、意味わかんない!別に気にしてなんてないし!」


いや、顔に気にしてますって書いてあったよ、うん。
まあ言わないけど。
でも神木さんはなかなか分かりやすい人だと私は思う。
ついでに言うと表情と言動が全くあってないから余計分かりやすい。


「…そういえばアンタ、あの女になんか注射打ってたわね」
「注射ァ?」
「え、ああ、アレか。心配しなくても怪しいものじゃないよ。ただの聖水と麻酔だから」
「へぇ…」
「なんや、苗字さんいつもそんなの持ち歩いてはんのか?」
「まあ一応ね」
「ということは医工騎士でも目指してはるんですか」
「うん、あと騎士と」
「え?苗字、剣持ってんの?」


ああ、そういえば奥村燐だけは私の刀を見ていなかったっけ。
ちなみにほかの人たちは奥村燐が去った後、援護するため刀を取った時に見ている。


「持ってるよー」
「へー、なら俺と同じだな!」
「そうだね」


ニカッと笑った奥村燐に微笑み返すと、なぜだか顔を反らされてしまった。
あれ、私なにかしたっけ。
いつも通りに笑ってみせたのに。
もしかして引き攣っていたのかな、今疲れてるから…。
そう考えていたら奥村燐の後ろで眠っていた杜山さんが目を擦りながら起き上がった。


「わり…起こしちった!」
「ううん、もう大丈夫…だいぶ元気になったよー。みんな何のお話してたの…」
「試験のことについてな」
「…一番の功労者は杜山さんやな」
「杜山さんがおらんかったらと思うとぞっとするわ。ほんまにありがとお」


バッと頭を下げる勝呂。
そしてみんなが杜山さんを賞賛すると、杜山さんは元々赤い顔をさらに赤らめて少し下を俯いていた。
そしていつのまにか話のネタは奥村燐へと移っていた。
みんなが談笑するなか私は奥村燐を見つめている神木さんを見た。
(あれは…疑ってるなあ)




視線と視線の鬼ごっこ
(ぶつかったら負けだよ)






―――――
聖水が屍の体液に少しでも効くのかどうかは知りません
私の完全なる捏造(想像?)です
ご注意下さい
 


 

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