デキちゃったシリーズ | ナノ  
 
過保護と想い



あれから数日。妊娠したといっても、まだお腹が大きく膨らんだわけじゃないからたいして生活は変わらなかった。…が、一つだけ変わったことがある。
それは、


「あっ、おい、***!んな重いもん持つな!俺が持つから貸せっ」

『いや、そんな重くないんだけど…』

「それで、もし転んで***とお腹の子に何かあったらどうするんだよ」


もともと過保護気味だった燐がさらに過保護になったことだ。ちなみに今持っているものはたいして中身も入っていない段ボール。重いはずもないが、燐はそれすら持たせてくれないらしい。全く、これじゃあ親バカはほぼ確定したようなものだ。

…ああ、それともう一つだけ変わったことがあったな。私が女子寮を出て旧男子寮に住むことになった。それも燐と同じ部屋。まぁそこでも過保護っぷりは相変わらずだけど。ついでに雪男も過保護気味になってしまった。なぜそこだけ兄に似たんだ。あ、あとメフィストが私も住むということで旧男子寮全体にクーラーが設備された。


『はぁ…』


思わず溜め息がこぼれる。だが、なんとなく楽しそうな燐を見ていると、なんだかそんなことはどうでもよくなってしまう。


「***さん、少し休んではどうですか?」

『雪男』

「昨日から引っ越しの準備などで疲れたでしょう」


今お茶入れますよ、と台所に立つ雪男の言葉に甘えてそこにあった椅子に腰を掛ける。


『燐、落ち着きないね』

「はは、兄さんはきっと楽しみなんですよ」


お茶をコップに注ぎながら雪男はそう言った。確かに、燐は楽しみなのかもね。なんだか嬉しくなった。椅子にもたれ掛かりお腹をそっと撫でる。まだ性別もわからないけれど、君は確かに望まれているよ。そう思いを込めて。


「しかし***さんには感謝してますよ」

『?、なんで?』

「だって、***さんはずっと兄さんの見方をしてくれましたからね」


確かに私は、燐がサタンの息子だと知ったときも燐の傍にいた。だって不思議と怖くなかったもの。目の前であの強大な力を見たが、意識を戻しみんなを心配する燐を見て、あぁ、やっぱり燐は燐なんだなと思ったから。サタンの息子である前に燐は燐なんだと思ったから。


「***さんがいなかったら、兄さんは壊れていたかもしれない」

『そんな、大袈裟だよ』


二人でクスクスと笑いあった。

そういえば、私が燐を好きになったのは、いつだったか。あれは確か入学式の日。落とした私のハンカチを拾ってくれたのが出会いだったと思う。クラスは違ったけど、祓魔塾で会った時にはお互いに驚いてたっけ。

今思えば一目惚れだったのかもしれない。燐の曇りない笑顔に見とれた私がいたもん。そういえば、しえみに対しても何度かヤキモチ妬いたことあったな。それで一回燐と喧嘩したこともあったっけ。反対に、私が勝呂くんたちと喋ってたときに燐が嫉妬したっていう出来事もあった気がする。

走馬灯のように頭を駆け巡る想い出たちに懐かしむ。

ふと思った。きっと私の初めては全て燐なんだろうな、と。

目を奪われたのも、見とれたのも、恋をしたのも、嫉妬したのも、片想いしたのも、告白したのも、両想いになったのも、デートしたのも、手を繋いだのも、キスをしたのも、愛し合ったのも、全部全部燐が初めてなんだと思う。


『雪男は、お兄さん想いだね』

「***もね」


唐突な私の言葉に驚きながらも雪男は笑ってくれた。それから二人で談笑していると荷物を運び終わった燐が台所に現れた。


「二人で何話してたんだ?」

『秘密、かな。ね?雪男』

「…そうだね、***さん」


雪男と顔を合わせて意地の悪い笑みを浮かべれば、燐は何だよそれ、とふて腐れた。そんな予想通りの反応をしてくれた燐に可愛いと思ってしまった。


『大好きだよ、燐』

「なっ、何だよいきなり。…俺だってだ、ばか…」


少し頬を染めながらそう言ってくれた燐に、くすりと笑顔が零れた。そして一瞬存在を忘れてしまった雪男が咳ばらいをして「僕がいることをお忘れなく」と言ったのにたいして私と燐は顔を更に赤く染めた。



















オマケ


「そういえば寒くないかい?」

『え』

「おら、これ貸してやるから着ろ。体あんま冷やすんじゃねぇよ」

『え』

「あ、クーラーの温度少し上げるね」

「頼む」


どこまでも過保護な双子でした


 



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