デキちゃったシリーズ | ナノ  
 
戸惑い



やっぱり私、燐を好きになってよかった。両想いになれてよかった。付き合えてよかった。全部全部燐だからよかった。もし燐じゃなかったらこんな幸せな気持ちにならなかったと思う。幸せなだな、と思って自分のお腹を優しく撫でる。

最初はどうなるかと思った。産むことに反対されるかなとか、別れることになるかなとか、マイナスなことばっかり考えてしまって、とにかく不安で、いざ燐が来たら何も言えなくて泣くしかできなかった。でも燐がそんなこと言う人なわけないじゃん。何も考えてないように見えて意外と考えているし、責任感もちゃんとある。まだ祓魔塾にいたときよりは大人になったような気がするし。


「ここに、いる、んだよな…」


目の前に座る燐が私のお腹に目線をやりながらそう言った。私が「そうだよ」と言うと燐はまだ実感ねぇな、と小さく呟いた。それは私も一緒だ。まだ夢を見ているような感覚で、現実に起きていることなんて信じられない。だって、私のお腹に新しい命があるなんて。


「でもよ、こういうのって周りに言ったほうがいいのか?」

『……私たちの年齢からしてあんまり大事にしないほうがいいんじゃないかな』


私たちはまだ17歳だ。世間体も考えるとあまり大事にしないほうがいいはず。だから伝えるのはごく僅かな人間だけにしなければ。もしかしたら産まれてくるこの子が酷い目に合うかもしれないのだ。しかも燐は青焔魔の落胤だ。少なからずこの子にも青焔魔の血が入っている場合もある。いや、多分ほぼ確実に入っているはず。


「そうか…」

『言うのは雪男とメフィストだけにしよう』

「あのピエロにも言うのか!?」

『だって私任務に出れなくなるんだよ?メフィストに言わなきゃどうにもならないでしょ』


まだ納得いかないような顔をしている燐だが渋々頷き「わかったよ」と言った。今はまだ多少の任務はできるけどお腹が大きくなったら外出は控えようと思う。その時にメフィストに皆には長期任務に行ったと言ってもらわなくちゃとても困ったことになるからね…。きっと出産も内密に行われることになるだろう。普通の子ならまだしも、青焔魔の血を引く子供だからね…


『燐』

「ん?」

『これから大変かもだけど、二人で頑張ろうね』

「勿論だ。俺がお前らを護ってやるからな」


燐にギュウッと抱きしめられて、暖かい燐の胸に顔を埋めた。





















「なんっですって!?」


バンッ!と大きく机を叩く音が理事長室に響き渡った。私と燐はビクッと肩を震わせた。取り合えず急いで報告したほうがいいと思いあのあとすぐにメフィストのいる理事長室に行き事情を説明した。…ら、何故かメフィストは激怒。全く相変わらず意味がわからない男だと思う。


「私の可愛い***になんてことしちゃってるんですかっ」

「いや、お前のじゃねぇし。俺のだし」

『話しズレてるよ』


おっと失礼、と先ほどのふざけていたメフィストが嘘みたいに真剣な顔になった。目つきを鋭くさせて私たちを見つめてくる。私の心臓はドキドキだ。変な意味じゃなくてね。緊張している。空気は今までにないくらい重々しいのではないのか、というくらい重かった。燐もいつものふざけた様子ではなくメフィスト同様真剣な表情をしていた。不謹慎だけど、かっこいい。


「…あなたたちは産む気なのですか?」

「勿論だ」

『産みます』


いつもより声のトーンが低い。
燐も、メフィストも、私も。


「わかってますか?あなたたち、というより奥村燐くんの子供ということは青焔魔の血も継いでいるのですよ。そうなれば本部も黙ってはいません。取り上げられるか、監禁されるか…、



――――殺されるか

それだけじゃない。青焔魔の血に赤ん坊が耐えられるかどうかもわからない、子を産む***にだってリスクはいくつもあります。貴女が死ぬ確率も十分にあるのだから」

「…っ!」


燐が私の隣で息を呑むのがわかった。そう。確かに青焔魔の血を引いてしまうこの子は殺されてしまうかもしれない。だからって下ろすっていうの?ううん、それはできない。まだ100%殺されると決まったわけじゃないんだから…それに私はこの子を産むためだったら命を惜しまない。無事にこの子を産むために、頑張らなくちゃいけない。


『産みます』

「な…っ!!」

『燐、どうせ下らないこと考えてたんでしょ。…私、どうしてもこの子を産むから』

「わかっているんですか?」

『わかってるよ』

「だけど…っ、***が危険かもしれないんだぞ!?」

『燐、それでも私は…!!』

「***の分からず屋!!」

『それは燐でしょ!?』

「っもういい!!」


燐はそう叫ぶと理事長室を出ていってしまった。私は追い掛けようと立ち上がったが、メフィストが私の腕を掴んだせいでそれは敵わなかった。キッとメフィストを睨むが効果はなし。メフィストは取り敢えずそこに座りなさいと言った。私は嫌々ながらメフィストに従い再びそこに座った。


「奥村くんの気持ちもわかってあげなさい。貴女が心配なんですよ」


…わかっている。産むことに賛成してくれた燐が私にもリスクがあると分かった途端に反対し始めた。自惚れじゃない。燐は私のことを想って反対してくれている。私のことを心配してくれて、反対してくれている。そんなことはわかっている。

…けど、どうしても私はこの子を産みたいんだ。他の誰でもない、燐との子供だからこそ。私はどうしても、この子を…


『やっぱりこのままじゃダメ…燐に私の想いを告げなきゃ』


駆け出していく私にメフィストは後ろから何か言っていたが私は無視して理事長室から出ていった。目指す場所は燐のいるところだ。私の気持ちを伝えるために。

(このままじゃ嫌)

(ただ貴方にわかってほしいの)

(私の気持ちを)



 



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