ひとまず降ろして欲しいです
『ゆーきお』
雪男と燐の部屋へ向かいこっそり入って背後から雪男の目を隠してみる。いつもなら近付くとこで気づかれるのだが余程疲れているのか今日は気づかなかった。
「…名前でしょ」
『あれ、わかっちゃった?』
「普通はわかるよ」
クスクスと笑いながら椅子を引きこちらを向いた。顔を伺うとやっぱり疲れが溜まっているように見えた。ほら、今も眉間を揉んでいる。やっぱり先生は大変だよなぁ…燐もいるし(失礼)
『疲れてるね…肩揉もうか?』
「…あぁ、頼むよ」
もう一度雪男に前を向いてもらい私は肩を揉み出す。うわぁ、凝ってるな…日頃の疲れが滲み出てるよ。そりゃあ大変だろうね、まだ幼いのにいろいろのし付けられて期待されてプレッシャーをかけられて。きっとその立場が私だったら私は壊れてしまうかもしれない。いや、壊れてしまう。私には堪えられないもん。そう考えると雪男は凄いな。
「…そういやあ名前、」
『ん?なに?』
「部屋から出て大丈夫なの?」
兄さん怒らない?と顔だけを後ろに向けて首を傾げながら聞いてくる。うーん、正直ばれたらかなり怒られるけどばれなきゃいいかと思っている。燐は今日遅いみたいだし、大丈夫だよね、うん。
『きっと大丈夫「ふーん」!』
びくり、と雪男も私を肩を震わした。聞いたことのある調度いい低い声。…そう、今日は遅く帰ってくると思っていた燐の声だった。私と雪男は顔を引き攣らせながら後ろをそーっと向きぎこちなく笑った。
後ろを振り向けばあからさまに不機嫌そうにしている燐が腕を組んで立っていた。私と雪男は心の中で「これはやばい」と感づいた。
「…名前、なんでここにいんの?」
『えっ、あ、』
「部屋から出るなっつったよな?」
『は、はいっ』
思わず声が裏返ってしまった。燐は普段は優しいけど本気で怒るととても怖い。一度私が脱走した時には炎を使ってまで私を捕まえにきた。それも鬼のような形相で。ちなみに雪男も怒ると怖い。燐みたいな口調になってかなり怖い。双子ったってそんなとこ似なくて良かったのに。…嘘ですごめんなさい。ねぇ雪男くん君は心が読めるのかい。なぜ急に私を睨むのだ。くそう、読心術だなっ
「ほら、部屋に帰るぞ」
『きゃ、ちょ、自分で歩くよっ』
「うるせぇ黙ってろ」
燐は私を横抱き、いわゆるお姫様抱っこをしたのだ。重いから下ろして欲しいが今の燐にはあまり抵抗しないのが身のためだと思い大人しく抵抗を止めてみた。最後に雪男と目があったがご愁傷様とでもいいたげな目をしていてイラッとした。少しは止めてくれたり燐を宥めてくれたっていいじゃないか。なんかムカついたので舌をベーッと出しておいた。さて、私はどうなるのやら。
ひとまず降ろして欲しいですあー、恥ずかしい恥ずかしい
もう勘弁してよ…