私じゃなくてあの子を選びなよ 『きゃ、』 あのあと私は閉じ込められていた部屋に連れていかれベッドに乱暴に投げられた。燐の表情は長い前髪に邪魔されてうまく伺えないが穏やかじゃないことは雰囲気で痛いほど伝わってくる。これは覚悟を決めるしかないなと思い顔を引き攣らせた。くそ、私が悪いわけじゃないのに。てかむしろ軟禁してる燐のほうが悪いんじゃないんですかー。でも怖いからそんこと言えるわけもなく。 「なぁ、」 燐はゆっくりと私の上に覆いかぶさった。顔の横に手をおかれますます逃げ出せない状況だ。抵抗してみたところで男と女の力の差は歴然だ。まずい。これは非常にまずい展開だ。 「…俺さ、お前のこと、大切なんだ。だから閉じ込めた。誰にも傷つけられないように」 『燐、んっ』 フリーズ。燐と私の唇が重なり合っていた。最初は何が起こったかよくわからなかったが意識がはっきりするころには舌がぬるりと入ってきて、うまく息ができない状態だった。 『ふ、ん…っ』 「…***、」 『ん…!!』 ああ、意識が持っていかれる…そう思ったときに調度良く唇が離された。私は酸素を取り入れようと肩で荒く呼吸をする。ちょ、なんで燐はそんな余裕なの。てか…私のファーストキスが…こんな形であっさり無くなるとは思いもよらなかった。というか燐がこんなことをする子じゃないと思っていた。 「っはは、」 『燐…なんでこんなこと、』 「なんで?…わかってんだろ」 『…っ』 わかってる。そう燐の言うとおりわかってる。燐が私に恋愛感情を抱いてることもわかってるんだ。でも認めたくない私がいる。だって燐は大事な友達で同い年だけど手のかかるお兄ちゃんみたいな存在で、恋愛対象としてはまったく見てなかった。だから尚更、私は辛い。辛くて悲しい。どうしてしえみではなく私を選んでしまったの、燐。 私じゃなくて、もししえみだったら、しえみだったらこんなことにならなかったのに。もっとキラキラしててもっと素敵な燐になれたのに。二人でご飯食べたり遊びにいったりキラキラした生活をしていたかもしれないのに。 「***…、好きだ」 『…』 「わかってる、***の気持ちはよ。それでもいいから、せめて俺から離れるな。…離すつもりもねぇけど」 『………燐、 私じゃなくてあの子を選びなよ しえみを好きになりなよ。燐、最初の方はしえみに気が合ったじゃん。どうして私なんかを好きになったの』 上に覆いかぶさっている燐の頬に手をやる。きっと今の私の表情はかなり情けないだろう。眉を八の字にしてだらしなく笑っているのだろう。だが燐は頬にやっている私の手を握った。 「***じゃなきゃ嫌だ。しえみは大事な友達、お前は俺の大切で唯一のヤツだ。他の女じゃもう満足できねぇ、お前だけが俺の心を満たしてくれる」 もう一度、今度は軽くキスをしてきた。暖かかったその触れた唇。 泣きそうになったのはなぜ? 私はこのままでいいの? 彼はこのままでいいの? なにか取り返しのつかないことにならないの? ……大丈夫だよね? ……大丈夫だよ、きっと。 自問自答。 |