「!?」
チチカナの打撃は、ティーチの片手で止められていた。
いや、吸い込まれていたのだ。
「言ったろ?俺は全てを飲み込む闇。お前の打撃も飲み込ませてもらったぜぇ?・・・そして」
「なっ」
「倍返しでお見舞させてもらう!!」
ティーチの手のひらから衝撃波が放たれた。
それは先程チチカナが放った打撃で
それによりチチカナは吹き飛ばされる。
ふわりと受け身を取ったチチカナは
旋律を奏でると、防御力強化の音色を放った。
「ゼハハハ!!悪いなチチカナ!俺は元お前の家族だからな!」
しかしそれは、昔モビーで元音を聞いていたティーチの身にも発動されてしまうのだ。
「あらあら。そうでしたわね」
それをものともしないチチカナの笑顔にティーチはある欲望を沸き上がらせる。
「ゼハハハ。お前はいつもニコニコしてやがるなぁ?一度その顔を恐怖で歪ませたいと思ってたんだ。」
「ウフフ。悪趣味ですわね」
「ゼハハハ!!なんとでも言え!俺ぁ海賊!欲求には素直に生きさせて貰う!!」
ドバッと吐き出された闇からは先程飲み込まれていった海兵達の亡骸が降ってきた。
皆恐怖に満ち、ひきつった表情で息絶えている。
「チチカナ。お前もすぐに恐怖におののくぜぇ!!」
ティーチは満足げに笑っていたが、チチカナはうっすらと笑みを浮かべた。
その目は笑っておらず、ただ無心にティーチを見つめている。
「なんだぁ?家族だった奴から殺されるのが怖くなったか。そうだ。もっと恐れろ!!あのときのサッチのようになぁ!!」
ティーチはそう言ってチチカナに向かい闇を放つ。
その瞬間だった。
チチカナが狂ったように笑い出したのだ。
まるで彼女の中で何かがキレたように。
「ウフフ。フフフっ。アハハハハハハ!!」
「なっ」
さすがのティーチもぎょっとして、唖然とチチカナを見つめた。
「クスクスっ、すみませんねぇ。ウフフ」
「なっ何がおかしい!!」
「それが過信だというのです。そう思いますわよね?ええ。わたくしもそう思いますもの」
「な、何いってやがるんだ!!」
「フフ。ええ。はい。そうですわね。わたくしもそれで良いと思います。フフフっ」
ティーチは全身の血が抜かれたかのように青くなった。
目の前の女は何かをぶつぶつと呟いている。
それが自分に向けてのものではないことは明白で
まるで見えない何かと会話しているようにも見えた。
そこでハッと思い出したのだ。
そう。
自分もこの目で見た
彼女達の世界で起きた出来事を。
舞う飛竜に
見たこともない生き物達。
自分はその時その戦いに巻き込まれたくないがために
ひっそりと害のない場所で傍観していた。
自分にとって彼女達の世界は恐怖でしかなかったことを。
そして彼女が
その身に何を宿しているのかを。