「なんでしょうか?」

「お前に聞きたい事が有るんだよい」

「ウフフ。なんなりと」

「お前はどうしていつも笑顔なんだよい」

すると彼女は一瞬目を見開いた後、すぐに笑顔を作った。

「ルピタとの約束ですわ」

「約束?」

風が俺たちの間を抜けていった。
チチカナは目を伏せて、語り出す。

「わたくしは、とある事情で孤児に。ルピタも同様。わたくし達はとある方に拾われ、姉妹同然に育ってきました。」

「・・・」

「わたくしは泣き虫で、笑うことも少なかったですわ・・・。ある日森で木の実を採取していた時、ルピタが崖から落ちたのです。幼かったわたくしはどうして良いかわからず、ただなき続けるばかりでした。」

チチカナはただ遠くの海を見つめていた。
きっとこの世界じゃない、別の海を見つめるかのようなその瞳に
吸い込まれそうになった。

「幸い、近くで山菜を取っていたおじいさんに助けられ、ルピタは軽いケガですんだのですが・・・わたくしは涙が止まりませんでしたの。そしたら、ルピタは傷だらけの顔で精一杯の笑顔を見せてくれましたわ。そして一言、泣かないで。笑って・・・と。」

「あいつはガキの頃からそんな危なっかしいやつだったのかよい」

「ウフフ。ルピタは、活発な野生児。という言葉がぴったり似合いますのよ?」

チチカナそう言って長い髪を耳にかける。

「それからルピタにあることを教えてもらいましたの。笑顔を忘れなければ、必ずいいことがやってくる。それは彼女の亡くなった御父上が仰っていたことだそうで・・・。わたくし達は指切りを致しました。笑顔を忘れない。と」

懐かしいですわ。と一言付け足して彼女はクスクス笑った。
初めて聞いた彼女達の話。

ほんの少しの、思い出話。
きっと、色々と苦労してきたんだと
俺は感じた。


「初めてだな。お前が自分を語ったのは」

「そうですわね。聞かれればお答えしますわ。けど、自分からお話しするようなものではありませんもの」

「そうかよい」

俺は空になった酒瓶を見つめて呟く。

「んんー」

そんな俺たちの後ろで小さな呻き声。
ふっと視線を移せば、ルピタが頭を押さえて起き上がっていた。

「うう。寒い。頭いたい」

「あらあら。おはようございます。ルピタ」

「飲み過ぎだよい。」

するとルピタはへにゃりと笑って立ち上がる。

「えへへ。あーあ。サッチ隊長お腹出して寝てるしー。エース隊長は・・・あーあ。」

ルピタはサッチの腹にその辺にあった布をかけてやり、エースの髪を掴んで持ち上げ下敷きになっていた皿を退かしてやっていた。

「まったくもう!二人とも隊長の癖にだらしがないです。オェエエエエエエ!!!」

「一番だらしないのはお前だよい。」

オエオエ言うルピタを見ながら俺は苦笑いだ。

そんなルピタにクスクス笑いながら近づいたチチカナは、彼女の首をストンと叩く。
そうすれば、ルピタは白目を剥いてひっくり返った。

「全く。しょうがないですわね」

チチカナはニコニコ笑って倒れたルピタをひょいと担ぐと、俺に振りかえる。

「お目汚し失礼致しましたわ。おやすみなさい。マルコ隊長」

「よ、よい」

そう言ってチチカナは、ルピタを担いだままでスタスタと戻っていった。

あの細い体のどこに、あんな馬鹿力を隠しているのか?
俺はそれが疑問だ。
あ、そうだ。
包帯のことも聞きたかった。

月明かりが照らす甲板で、俺はただ佇んでいた。


少し知れた彼女のこと。
まだまだ知らない彼女のこと。


俺はいつの間にか、もっと彼女を知りたいと
思っていたんだ。




あとがき******

マルコとチチカナさんの番外編的なの書きたくて
やってきました番外編。
それ以外でも
本編で書けなかったやつを書いていきたいと思います!
では、読んで下さりありがとうございました!


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