「サッチたいちょーう!!」
「なになに!?」
「アレやってくださいよーう!アレ!」
「おっけー!」
今日の宴は大層盛り上がってる。
目の前のルピタとサッチは
酔っぱらってベロベロだ。
酒が弱いくせに、ガブガブ飲むからそうなるんだよい。
俺はそう思って酒瓶を煽った。
「きったねぇ踊りみせんなー!」
「そうだそうだー!!」
船内はブーイングの嵐だ。
サッチはそんなことお構い無く腹おどりをし続ける。
「チチカナちゃん!踊ってよー」
「サッチ隊長の腹おどり見てたら、酒が不味くなるぜー!!」
「ひどいよーーー!!!チチカナちゅわーーん!!みんながいじめるよーーー!!」
「うふふ。確かに不快ではありますが、それ以上に愉快になれる踊りですわよ?」
「笑顔でひどいこといわないでぇええええん!!」
このチチカナという女は、ルピタと変なネコのリィリィと共に異世界からやってきたという。
エースが無人島で拾ってきた連中の一人だ。
この海じゃ何が起こるかわからない。
そんな海だが、さすがに異世界と言われた時は
戸惑いを覚えたものだ。
しかし彼女らに敵意はなく。
すぐにこの白ひげ海賊団にも馴染んだ。
女とは思えない戦闘能力を持つ彼女達は
ハンターだという。
ルピタは炎を纏う馬鹿デケェ剣を振り回し
チチカナはヘンテコな笛で、魔法使いのような技を繰り出す。
その武器たちは、この世界じゃ見慣れねぇもんで
それは彼女達が異世界からきたという動かぬ証拠でもあった。
ルピタはエースの隊に、
チチカナは俺の隊に、
ネコはサッチが預かっている。
そして俺は気になる事があった。
俺の部下になったチチカナは
常に笑顔を絶やさない。
それは戦闘中であってもだ。
そしてもうひとつは
彼女の戦闘能力の高さだ。
笛の扱いはもちろん、体術もその身のこなしも
目を見張るものがある。
彼女は本気を出していない。
見た感じでわかるんだ。
戦闘中の彼女は、どことなく余裕綽々で
まるで部屋の掃除をするかのように
敵を倒していく。
俺よりきっと年下で、しかも女。
いつどうやって、その技を身につけたのかは不明だが
もし彼女が本気でかかってきたら俺と互角
いやそれ以上の結果になるだろうと
予想できる。
彼女は自分を語らない。
俺が知ってる事と言えば
彼女は異世界人でハンター。ということだけだ。
宴は幕を閉じ、甲板で酔いつぶれ眠る輩もちらほら。
ルピタは変な寝言を言いながら大の字になってイビキをかき。
サッチは腹を出して眠っている。
エースはいつものごとく皿を枕にして大イビキをかいていた。
「あら。マルコ隊長眠れないのですか?」
甲板で一人、酒を飲んでいれば
か細い声が聞こえてきた。
振り返れば、先に部屋に戻ったはずのチチカナが微笑んでいたんだ。
整ったその笑顔。
髪を下ろし、寝間着代わりのインナー姿の彼女は俺の横へとやってくる。
いつも防具で身を固める彼女しか見たことなかった俺は少しドキリとしてしまった。
そこで、ふっと気づいた。左腕にはぐるぐると包帯が巻かれていることに。
今日も海軍と一悶着あったが、彼女のはケガひとつしていない筈だ。
不思議に思いながらも、隣のチチカナに声をかける。
「お前も眠れないのかよい?」
「ええ。少し風に当たろうと思いまして」
「その格好じゃ冷えるよい」
「ウフフ。そんなヤワな体じゃありませんわ」
表情の読めないその笑顔が俺に向く。
少し気まずくなって、目を反らし酒を煽った。
「あらあら。皆さん夢の中のようですわね」
甲板に寝転ぶクルーを見て、クスクスと笑うチチカナ。
「あのよい」
そんな彼女に、俺は口を開いた。