先程の少年が俺に与えた恐怖が抜けきらない中。俺は家の中へ入った。
ひんやりと冷たい家の中の空気。

その中。ガヤガヤとテレビの音だけが聞こえた。
今日ルフィは友達んところだよな?
じじぃでもかえってきてんのか?
そう思いながらリビングを覗けば・・・

「うわぁあああ!!!!」

「なんだい。騒々しい」

頭に包帯をぐるぐる巻きにした天パーが、ソファーに座っていつものごとくおにぎりをモシャモシャ食っていた。

「おまっ、おま!お前っ!!」

「なんだい?幽霊でも見たのかい?」

「にゅ、入院すんじゃなかったのかよ!!」

「その必要はないさ。多少出血が多かったみたいだが食べれば血なんていくらだって生成されるものさ」

そう言っておにぎりをかじりニヤニヤと笑う天パーを
俺は化け物と命名した。

「大丈夫なのか?」

「平気さ。ダメだったらこんなところでおにぎりなんて食べていないさ」

それもそうだけど・・・。
俺はそう思いつつ
天パーを階段から突き飛ばした犯人を
探ろうと口を開く。

「ってかよ、誰がお前を」

言いかけたところで、霊美の瞳がぐりんと俺に向く。
ビックリして目をそらした。

「誰にも突き飛ばされてなんかいないさ。ただ足を滑らせた。それだけの事だ。」

足を滑らせた?こいつが?
超人並みの運動能力を持つこいつが
足を滑らせるなんてヌケこと
するだろうか?
確かにあの時階段には人の気配がしたんだ。
でも・・・


「そう言えば、もうわたしと喋らないんじゃなかったかい?」

そんな俺の推測を止めたのは天パーの言葉。

「そ、それは・・・」

すっかり忘れていた。俺はハッと口を押さえたが
時は既に遅し。天パーはテレビを見ながら小さく笑っていた。
なんだかすごく恥ずかしくなって、俺は天パーの隣に腰掛け頭をかきむしる。

「あのよ。」

「なんだい?」

「・・・」

俺はさっきの事を話そうと思ったが、ちらりと天パーを見てやめておく。
あの少年と天パーの関係は聞いちゃいけない気がしたんだ。

「奴に、会ったんだろ?」

「え?」

俺が話し出す前に、天パーは俺を見て呟いた。

「まったく。相変わらず行動の早い奴だなぁ。キシシシ」

天パーはクツクツ笑うとテレビに視線を戻したんだ。

「・・・一体。一体なんなんだよ!さっきのガキといい、お前といい・・・。シャーマンって」

そこでハッと言葉を抑えた。
いつぞやか、天パーに月野辺の事を聞こうとして止めたことがある。
それは聞いちゃいけない事だって・・・

すると霊美は一呼吸おいて話し出した。

「わたしたち月野辺一族は、その昔から霊的能力を行使するシャーマン一族だ。しかし、その実態は・・・呪われている」

「は?呪われてる?」

「わたしたちの一族には女しかいないんだ。それは代々受け継がれ今も昔も崩れた事はない。」

「女しかいねぇ?じゃあ・・・」

じゃあ、その、あの。
子孫を残すこと出来なくねぇか?
と思ったがなんとなく言いづらくて言わないでおく。

「一族の女は決まって二十歳になると婿を貰うのだよ。そして子をもうける。そうして栄えてきたんだ」

「あ、そうなのか。まぁふつーの事だよな」

「そう。それが普通の事なのだよ。しかし何故月野辺が呪われた一族と言われるのかはその先にある。」

そこで天パーの真っ赤な瞳が俺を捕らえた。
それはいつものようにニヤニヤと笑ってはいなくて
どこか悲しげな色を映していたんだ。

「月野辺の初代は絶大な力を持っていた。その力を代々受け継がなければならない。しかしその血は他と交配することによって次第に薄くなる。それを危惧したわたしたち一族は禁断の秘術を使ってそれを止めたのだ。」

「・・・禁断の秘術?」

「産まれた女の赤子を、初代の転生体にすること。それを目的とした秘術だ。月野辺に女しかいないのは・・・婿もしくは産まれた男の赤子を生け贄にし、女の赤子に初代の能力から記憶までの全てを植え付けるから。だから月野辺には男がいない」

俺は息をのんだ。
それはつまり、産まれた子供の父親や兄弟を・・・
ということになる。

「この術は極めて難易度が高い。生け贄を捧げたからといって必ずしも成功するわけではないのだよ。時には何百年も初代の転生体が誕生しない場合だってある。」

ため息混じりに語られる真実に、俺は変なドラマや映画を見ているような感覚に陥った。
こんなこと現実にあるわけないと
どこかで否定したいんだと思う。

「わたしは、一族がまちこがれていた・・・。転生体なんだ」

「は?」

「は?ではないよ。エース君。人の話はちゃんと聞きたまえ。」

「え?いや。転生体って」

こいつさらりとすげーこと言ってるけど
ん?何?あれか!中二病か!

「なんだい?中二病とは?聞いたことのない病だね。」

こいつまた・・・。
俺は心を読まれるのに慣れはじめていた。
すごく嫌な慣れだが。

「わたしの中には、わたしが二人いる。つまり現代に産まれた霊美。そして初代である月野辺霊美。わたしであってわたしではない。物心ついた頃にはそれを理解させられていたものさ。しかしそれだって容易な事ではなかったよ。産まれた頃から遥か昔、平安の頃からの記憶を持っていたんだからね。時折わからなくなるときだってあるんだ。自分が何者なのか。」


そう言った霊美は泣きそうな顔で笑った。
今まで見たことないような奴の顔に
俺は唇を噛む。
そして納得する自分がいた。
ラブホで会ったあの花魁の幽霊が
数百年前にこの首飾りをもった月野辺を見たというのも
きっとその初代の転生体が、ということなんだろう。


「まぁ。そんなことはどうでもいい。」

どうでもいいのかよ!!と心の中で突っ込みながら
俺は次の話に耳を傾けた。

「わたしの能力は様々だ。霊が見える、会話が出来るのはもちろん彼らの力を借りた占い、まじない。そして霊視能力。これはよく気味悪がられたよ。」

「霊視能力?」

「その物、人の過去や心を読める。正確には嫌でも見えてしまうのさ。やっかいなものだよ。こんなわたしでも一応小、中は卒業しているからね。同級生に近づく人なんて居なかった。心の中ではわたしにたいする罵倒もあったしそれは幼心に辛かった思いでがある」

霊美はそう言ってキシシシ。といつものように不気味な笑みを見せた。
俺はそこで昨夜こいつに言ってしまった事を思い出した。
俺はとてつもなく申し訳なくなって
奴に頭を下げる。

「わりぃ。俺昨日・・・」

「何。気にすることなんて何一つない。それが普通の反応さ。機嫌が悪かったら呪い殺していたかもしれないが」

「え!?」

「冗談さ。エース君」

いや。なんか本気っぽそうだな。

天パーの不気味な笑みを見てそう思った。





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