「・・・いや、あのよ!」

どうしてそんなに焦るの?
わかった。もういいよ。

「ごめん。エース」

もうどうしていいか分かんないよ。
このままじゃ。
私どうにかなっちゃうよ。



「少し距離・・・置かない?」


私が放った言葉に、エースが目を見開いた。
ごめん。でもこれしかないよ。

カナエさんが言ったあの言葉が
回る。

消えちゃえばいい
きえちゃえばいい


キエチャエバイイ。

そんな気持ちで一緒になんか居れないし
居たくもない。

「マジで言ってんのかよ」

「ごめん」

「っ・・・俺はあの天パーとは何もねぇ!お前と付き合ってから他の女なんか眼中にねぇんだ!」

「ごめん!わかってるよ!」

「じゃあなんでっ・・・」

「・・・少し気持ちを整理したいの。こんな気持ちでエースと一緒になんていれないよ」

「こんな気持ちって・・・まさか、他に好きなヤツでもいるってぇのかよ」

「違う!エースの事は大好き!!離れたくない!でもこれは私の気持ちの問題なの。お願い・・・」

そこまで言えばエースははぁってため息をついた。
わしわしと頭を掻いて、明らかに機嫌が悪い。

「わかった。お前がそこまで言うなら距離置こう。電話もメールもしねぇ。昼休みも会いに来ねぇし、朝も一緒に行かねぇ。これでどうだ?」

「うん。それでいい」

「お前のその気持ちとやらが整理つくまで待つから。だから整理ついたら連絡くれよ」

「・・・ありがと」

「・・・じゃあな」

エースはそう言って教室から出ていった。
残されたのは私だけ。
誰も居ない教室でポツンと私だけ。
ぺたんと椅子に腰かけて、机に突っ伏して泣いた。
声にならない声をあげて。


これでよかったんだ。
別れたわけじゃない。
ちゃんと整理して会いにいこう。


「見てたよぉ?瑠璃ちゃん?」

聞き覚えのある声にハッと顔を上げた。
目の前の席に笑顔のカナエさんがいたんだ。

「カ、カナエさん」

「こんな泣いちゃって。綺麗な顔が台無し」

カナエさんはそう言ってニヤリと笑うと、私の頬をその指で撫でる。
するりと頬を滑る指はひんやりと冷たかった。

「あ、あなた。誰なの?」

「え?あたしは柊カナエ。この学校の二年生って言ったじゃん?」

「だっ、だって・・・」

私は覚悟を決めて言った。

「今日確認したんです!二年生に、二年生に柊カナエって人は居ないって!!」

そしたらカナエさんがプッて吹き出して
ゲラゲラと狂ったように笑いだしたんだ。
私は怖くなって鞄を持つと教室の出口までダッシュする。

「逃がさないよ!!」

カナエさんがそう叫べば、扉が一人でにバンっと閉まった。

「ひっ!!」

「そんな怖がらないで?またお話しましょうよ?」


「い、嫌っ!!」

嫌がる私に近づいてくるカナエさんの顔は
ニヤニヤと歪んだ笑みを見せていた。

「ふふ。そうよあたしはこの学校の二年生。でもあたしが二年生だったのは10年位前の話・・・」

「なに言って・・・」

カナエさんは楽しそうにくるりと回ると、私の席に向かってスキップしていく。

「10年前。ここは二年生の教室だった。それで私はこの席。」

そう言って私の机をするりと指で撫でる。

「それで、この席が・・・ムカつくアイツの席!!!!」

私の前の席をバンっと叩いて、また狂ったように笑いだすカナエさんに
恐怖以外のなにものでもないものが沸き起こる。

「アイツが嫌いだったわぁ。何してもあたしの上に立ちやがって。親友だよとか言っちゃってさぁ!仲良いふりして、いつもあたしを蔑んで笑ってた。ムカついた。スッゴクね。だから取ってやったのアイツの大事なもの。」

「カ、カナエさん・・・あなた」

「そしたら、アイツ怒ってねぇ。ふふ。それから先はあたしにもわからないの。気づいたらこんな風になってて。ふふふ。アハハっ!!」

まるで金縛りにあったかのように体が動かなかった。
早く逃げなきゃいけないのに、足がガクガクして動かない。

「ねぇ。彼氏と幸せになりたいんでしょ?」

「カナエ・・さ、っひぃいっ!!」

くるりと振り向いたカナエさんの顔は
真っ赤に染まってた。
ぼたぼたと垂れ落ちるその赤が血だって気づくのに時間はかからなかった。

焼き付くような赤が目の前に来たときにはもう
どうしようもなくて
私の意識がそこで途切れる。



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