「お、おい。」
「な、なにを・・・」
しかし時すでに遅し、ヤツはニヤニヤ笑いながらそのウサギに刃をドスッと突き立てる。
「霊美!!てめぇ!!」
「サッチ!落ち着けよ!」
サッチは鬼の形相で霊美に詰め寄るが、ヤツはニヤニヤ笑うだけだった。
「てめぇ!!笑ってねぇでなんとか・・・」
そこでサッチの威勢が、まるで水をかけた火のようになくなったんだ。
それは何故か?
抜いた刃先に
髪の毛が絡み付いていたからだ。
俺達はそれを見て顔を青くする。
「な、なんだよこれ」
「ん?髪の毛さ」
霊美は楽しそうにウサギを解体する。
あとに残るは布切れになったウサギと大量の黒い髪の毛。
そして小さく折り畳まれた紙だった。
霊美がその紙をカサカサと広げれば
赤茶色の何語だかわからない文字がビッチリかかれていて
更に悪寒が走る。
「これは西洋の魔女の間に伝わるまじない。いやまじないなんて可愛らしいものじゃない。黒魔術と呼ばれるものだ」
「く、黒魔術?」
「ああ。昔から呪いやそういった関連の儀式には必ず毛髪が使われている。」
「の、呪い!?俺は、のろ、呪われ・・・」
「呪いといっても、ドラマや映画のように死んだり不幸が襲うような呪いばかりじゃない。これは異性を虜にするよう呪いがかけられている」
その発言に俺達は顔を見合わせた。
呪いといえば、見たら死ぬ!!呪いのビデオとか位しか思いつかない。
あれか?
小学生の間で流行る恋のおまじないってやつか?
「キシシシ。エース君。そんな可愛らしいものじゃないって言ったろ?」
こいつ!また俺を読みやがった!!
本当に気味の悪いヤツだ。
そんな俺を他所に霊美は続けた。
「この術の成功に必要な条件は2つある。まず1つは術者の毛髪と術者の血液で書かれたこの呪文を一週間、対象者にバレないよう身に付けさせる事。そしてもう1つは・・・術者の毛髪を体内に取り込ませる事だ」
「え?」
「サッチ君。君はこれ以外に食べ物を貰わなかったかい?」
「あ、え・・・まさか!弁当!!でも、髪の毛なんて・・・」
「キシシシ。細かく刻めばなんとでもなるさ。例えば、色の濃いものに混ぜるとかしてね」
そこでサッチが口を押さえて後ずさる。
その顔は血を抜かれたように真っ青だ。
「でもなんでこんなこと・・・」
「さぁ?それは本人に聞いたら良いんじゃないか?」
そう言って霊美が教室の入り口を指差した。
俺達も恐る恐るそちらを振り向いて
小さく悲鳴を上げたんだ。
そこに居たのは
おかっぱ頭と大きな瞳を半分だけ覗かせた
あの吉田って子。
俺達と目が合えば、バッと逃げ出す。
「あ!」
そう思うや否や、それを追いかけたのは天パー。
俺達も後を追って廊下に出れば、天パーに捕まった吉田って子がしゃくりあげて泣いていた。
「ひ、ごめ、ごめんなさい」
「・・・君。見たところ素人だよね?」
「ひっく、昔から、おまじないとかに、興味があって・・・」
「君に良いことを教えよう。この術は興味云々で行使できるほど簡単なものじゃない。下手したら君の身にも何か起きていたかもしれないよ」
「ひ!」
「こういったものにはそれなりの代償が必要になるんだ。君は物を買うとき何を払う?お金だろ?魔術や呪いもそれと同じだ。今回は失敗したから良いものを・・これからはきをつけたまえよ」
「ごめんなさい!わたしっ、サッチ先輩が気になってて・・・でもわたしっ可愛くないし、人見知りだしっ、おまじないに頼るしか・・」
「君にもう1つ良いことを教えようか?魔術や呪いに頼って成就した恋愛なんて、所詮独りよがりってことを忘れちゃならない」
「え?」
「つまり、サッチ君とお近づきになりたいのなら自分で勇気を出すことさ。」
霊美はそこまで言うと、スタスタと俺達を通りすぎ教室へ入っていった。
廊下に残された俺達。
「おいサッチ。なんか言ってやれよ」
サボが肘でサッチをつつく。
しかしサッチは乗り気ではなさそうだ。
数メートル先で立ち尽くすあの子と、横の俺達を交互に見つめ、眉を寄せた。
「だってよ、俺髪の毛入り弁当食わされて・・・」
「それなら問題ないさ」
そこで教室から出てきた天パーが鞄からあるものを取り出したんだ。
それはあの可愛らしい弁当箱。
「え、あ?なんでお前が持ってんだよ」
「サッチ君。君が食べたのはわたしの弁当だ」
「は?」
「君。お昼を食べる前にトイレにいったろ?嫌な予感がしてね。その間にすり替えといたんだ」
天パーはさらに同じデザインの弁当箱を取り出してニヤリと笑う。
「こっちが君が食べたわたしの弁当。こっちが髪の毛弁当。奇遇なことにわたしの弁当箱と同じデザインだったのでね。」
ヤツは愉快そうに笑うと空の弁当箱をサッチに押し付け
洗って返してくれたまえ
と笑い
更にあの子には髪の毛弁当を渡して
さすがにこれは食べれなかったよ。
と一言。
そして何事もなく去っていった。
あの天パーは本当に何者なんだろう?
と改めて思った。
← →
戻る