「おいっ!人のケータイ勝手に取ってん・・・んんんーー!!?」

天パーは俺の頬を思い切り手のひらで押してやがる。
なんなんだこの馬鹿力。
俺は今スッゴク滑稽な感じになってる。

「サボ君落ち着きたまえ。今何処にいるんだい?」

『家だ!早くっ・・・早く来てくれよ!』

霊美は電話を切ると、ケータイを俺の方へ放り投げた。

「てめぇーー!!人のケータイ投げてんじゃ・・・ってはやーー!!!」

俺が言い終わる前に霊美は走り出していた。
その速さは多分オリンピック選手よりも
速いと思う。

「わ、わりぃ瑠璃。」

俺がチラリと瑠璃を見れば、彼女はふんわりと笑った。

「大丈夫。行って?サボ先輩に何かあったんでしょ?」

俺は唇をグッと噛みしめ、もう一度瑠璃に謝ると
天パーの後を追った。


「っはぁ!はっ!待てよこのやろーー!」

「やぁやぁエース君。彼女はいいのかい?」

「っはー!はー!ってめぇには関係ねぇだろ!」

天パーは案の定速かった。
足の速さに自信のあった俺だが、ついていくのがやっと。
しかも、息一つ切らしてねぇ。
化け物か?化け物なのか?


サボの家についた俺達はその大きな家を見上げた。
サボん家は、金持ちでけっこうな豪邸だ。
父ちゃんはどっかの貿易会社の社長さん。母ちゃんは世界的ファッションデザイナーとかで
ほとんど家にいない。
お手伝いさんも雇ってないらしいから、基本この豪邸にサボは一人で住んでるようなもんだ。

こじゃれた門を開けて恐る恐る庭へ。
そしてその二枚扉をダンダンと叩いた。

「サボ!!サボ!!いるんだろ!?開けてくれ!!」

俺が扉をドンドンしている隣で、霊美は何食わぬ顔して反対側の扉を開けて
スタスタ中へ入っていった。
俺は凄く恥ずかしくなった。

大理石の床が広がるその空間を、俺達は急ぎ足で歩いた。
サボの部屋は、確か二階の端にある。
階段を上り、サボの部屋を開けた。


「サボ!!」

「・・・エ、エース!!霊美!!」

そこには顔を真っ青にして、 ガタガタ震えるサボの姿があった。

「どーした!?サボ!!何があったんだよ!!」

「あいつが来るんだ!!・・あいつが!」

「あいつって・・・」

そこで着信音が響く。
それは俺のものではなく、サボのものだった。
サボは悲鳴をあげて布団に潜っていく。

「お、おいっ!サボ!」

「キシシシ。サボ君がいう"アイツ"とやらは、あのこのようだね」

天パーはそう言って窓の外を見ていた。
俺も窓に近づき外を見てみる。
俺はゾッとした。

二階から見える窓の外。
ちょうどサボの家の前にある電柱の影からそいつはスマホ片手にこちらを見ていた。
青白い手足。
長い黒髪から覗く瞳は白目を剥いていて、明らかにこの世の者じゃない。

鳴りやまない着信音。
俺は咄嗟にサボのケータイを床に叩きつきた。
ガシャンという音と共に蓋と電池パックが辺りに散らばる。

「な、何でだよ!!」

しかし、止まると思われた着信音は未だに鳴っているのだ。

「無駄だよ・・・エース。」

「あぁ!?」

「電池抜こうが、電源切ろうが、あいつからは逃げられないんだ!!」

布団の中のサボの声は震えていた。


「やれやれ。厄介なのに気に入られてしまったようだね。サボ君」

霊美はため息混じりに呟く。

ふと外を見れば、あの女の姿がない。
それと同時に下で扉が開く音がした。


入ってきやがった。

俺は嫌な汗が額から吹き出す感覚を覚える。

たん、たん、たん。と静かに階段を登ってくる音に心拍数が尋常じゃないくらいにあがる。
息をするのもやっとなくらいだ。

そして、バンと勢いよくサボの部屋の扉が開いたんだ。

誰もいないそこから、すぅっと縫うように現れたあの女は
未だにスマホを耳に当てていた。

『どうして?』

その女の口がごもごもと動く。

『私がブスだから?』

『だから殺したのね?』

『ひどい。ひどい』

女はそう言ってユラユラと揺れる。
それは不気味そのもので、俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「やぁやぁ。悪いが君はもうこの世の存在ではないのだよ?」

霊美は俺を押し退けるように前に出ると、ニヤリと笑ってそう言った。

「君の望みは、君を殺した犯人が捕まる事だろう?それだったら随分前に叶っているはずだ。サボ君は関係ない。解放したらどうだい?」

『いやよ。男は皆キライ。人を顔で判断して・・・、綺麗な子には優しい癖に・・・。キライ。でもサボ君は違ったから』

女はそう言ってその白目を、サボが潜る布団に向けた。

『だから一緒に逝きたいの』

飛びかかろうとする女の前に天パーが素早く立ちふさがった。
そしてあの札を取り出すと、その額に貼り付けたのだ。

『イイイイいいイイイイギャアぁああぁ!!!』

女のつんざくような悲鳴。
それはとても聞けたもんじゃなく俺は思わず耳をふさいでしまう。
ギュッと目を瞑ってそれがおさまるのを待った。

そして次に目を開けたとき、俺の前には
素朴な顔立ちの少女が立っていたのだ。
見た感じ、多分俺達より幼いだろう。

『わたし・・・』

「やぁやぁ。君を蝕んでいた怨念だけを取り除かせてもらったよ。どうだい気分は」

『わたし・・・わたし!!』

女の子はさめざめと泣き出した。
そんな様子にサボが布団から顔を出す。

「あ、あれ?」

サボにも見えているらしく、その子の姿に目を見開いていた。

『ごめんなさい。わたし・・。わたし嬉しかったの。サボ君がメールで言ってくれたあの言葉が』

「おい。サボ。お前なに言ったんだよ」

「え、あ、えと」

『サボ君は言ってくれたよね。人間外見じゃない。俺だって格好いいとは言えない。でも中身を見てくれる奴はいくらだっている。って』

女の子はそう言ってふわりと笑った。

「キシシシ。サボ君。君も中々罪な男だ」

『わたし甘えてたわ。サボ君の優しさに・・・殺そうとしてごめんなさい。さよなら』

女の子はふっとその存在を消した。
俺はその後に残されたあるものを拾い上げる。

「これ・・・」



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