「・・・おい。さっきからそこでコソコソしてる奴。出てこいよ」

俺はさっきから気になっていた存在に声をかけてみた。

そいつは柱の影からじぃっと俺たちを見ていたんだ。
もちろんこの世の存在ではないだろう。

『驚いたねぇ!あんたあたしが見えるのかい!?』

出てきたのは、綺麗な着物を纏った女。
花魁のようなその女は、ふわりと俺のそばへやって来た。

『あたしの名は夕霧。これでも生前は夕霧太夫って呼ばれた人気者さ』

夕霧と名乗った女は、着物の袖で口元を隠しクスクス笑う。

「よくわかんねぇけど、出てってくれよ。お前がいると集中出来ねぇからよ」

『あんまりな言い方じゃないか。これでもあたしはここの守護霊だよ?』

夕霧はふわりと回ると、俺の目の前へ迫る。

『いい男だねぇ。あたしが生きてたら、骨抜きにしてやりたいくらいだ。・・・ん?』

夕霧は俺の胸元へ視線を移す。
そこにあるのは、あの呪いの首飾り。

『おやまぁ。あんた月野辺の人間かい?』

「え?」

『どうりで強いもんを感じたわけだ。』

「ちょ。ちょっと待てよ。俺は月野辺じゃねぇし」

すると夕霧は顔をしかめる。

『おかしいねぇ。その首飾りは月野辺の首飾りじゃあないのかい?』

「あんた。月野辺のこと詳しいのか?」

『詳しいってほどじゃあないけどねぇ・・・』

夕霧はそう言って、キセルを取りだしふかす。
幽霊もタバコ吸うんだって思った。

『あたしゃあ元々ここいらの悪霊を束ねる親分みたいな存在だったんだ。けど、月野辺の人間があたしを徐霊しにきたのさ。でも、あいつらはそこいらの霊媒師とは違ってねぇ。あたしを悪霊にさせていた怨念だけを取り除いてくれたんだよ。そこから成仏するかしないかは自分次第と言われた。あたしは今までの罪滅ぼしってわけじゃあないけど、ここいらの土地を守る守護霊として残ることにしたのさ』

夕霧は早口で喋る。
その様子から、月野辺の人間に心底感謝しているようだ。

『その時月野辺の人間が身につけていたのがその首飾り。よぉく覚えているよ。とても綺麗な首飾りだからねぇ。今見ても綺麗なもんだ』

「そりゃあ何年前の話だよ」

『ざっと数百年前位の話かねぇ・・・昔過ぎて忘れちまったよ』

夕霧の話を聞いて、俺は疑問をもった。
この首飾りは
あの天パーが作ったといっていた。
しかし数百年前夕霧の前に現れた月野辺の人間も
これと同じ首飾りをつけていた。

こりゃあどういう事だ?

そこで浴室のドアが開く音がする。

『おやまぁ。恋人さんのお出ましかい?ならあたしゃあおいとまするとしようかね!』

夕霧はそう言って消えていく。

「エース。待った?」

「い、いや。大丈夫だ。俺もシャワー浴びてくるよ」

「・・・うん」


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