「大丈夫です。ありがとう」

俺はドキリと心臓を跳ね上がらせた。
見た目はあの天パーだ。
しかし声音、その眼差しは

紫乃そのもの。


「寅次郎さん」

霊美の腕がそっと伸び、横たわる寅次郎の頬を撫でた。
うっすらと寅次郎が瞼を開く。

「・・・紫・・乃?紫乃か?」

「ええ。紫乃です。覚えていてくれたのですね?」

「・・・紫乃。すまない。ワシは・・・」

「いいんです。あなたが・・・幸せにその生涯を生きられたなら・・・私はそれで」

霊美の瞳からは大粒の涙。
それは寅次郎の頬も濡らした。

「紫乃。ワシももうすぐお前の元へ・・・その時は」

「ええ。わかりました。・・・生きているあなたに一目会えて・・・私は嬉しい」

「争いのない平和な世界で・・・紫乃。おまえと共に・・・」

寅次郎はそこまでいって、瞳を閉じた。
すぅすぅとか細い呼吸が胸を上下させている。

霊美はというと。

「キシシ。泣かせるね」

元の不気味腐れ天パーに戻っていた。



寅次郎の娘のオバサンに追い出され、俺達は佐々木邸を後にする。
紫乃は嬉しそうな、寂しそうな
そんな顔をしていた。

そして駅へ戻って俺は悲鳴をあげたんだ。


なんか。紫乃の隣に、


軍服きた男がいる。


「エース君。君はいちいち反応が過剰だよ」

『驚かせてすみません。寅次郎です。先ほどはどうも』

それは若返った姿の寅次郎だった。
ということは、俺達が追い出されてから直ぐに・・・
ということになる。

俺と、天パー。
そして幽霊二体に、化け狐。
そんな異様なメンツで電車に乗り込む。

ここはあくまで電車内。
お化け屋敷でもなんでもねぇ。

紫乃と寅次郎は今までの時を埋めるかのように、楽しげに語り合い。
霊美はニヤニヤしながら、売店で買った
板チョコをバリバリ食ってる。
俺は化け狐を膝に乗せ、ただぼんやり外の風景を見つめていた。

そこでハッとする。


俺は一体なんなんだ?と・・・。





家についたのは夜の8時。
運良くじじぃはいなかった。
リビングには汚い字でルフィからの書き置きが・・・。

サンジのいえでめしくってくる。

こいつは漢字が使えねぇのかと思った。


『色々とありがとうございました。』

紫乃は深々と頭を下げた。
寅次郎も帽子を取り頭を下げている。

「いや。いいんだよ」

霊美はそう言いながら、1.5リットルのコーラをらっぱ飲みした。

これで紫乃の欲求は満たされたわけだが・・・

チラリと横目で幽霊カップルを見れば、先ほどより薄く透けている。

「ここから先は二人で逝けるかい?」

『ええ。大丈夫です』

『二人で共に逝きます』

紫乃と寅次郎はニコリと微笑みながら手を取り合っていた。


「そうかい。まぁあの世で幸せになってくれたまえよ」

霊美はそう言ってニコリと笑った。
こいつのマトモな笑顔を初めて見た気がする。

「エース君。二人に言うことはないかい?」

「え!?・・・いや。その。お幸せに・・・ぐれぇかな」

俺はそう言って頬を掻いた。

『ありがとう』

二人はそう言ってすぅっと消えていった。
きっと成仏したんだと思う。
二人の幸せそうな笑顔を見ていたら、なんだか胸が苦しくなった。

俺はあんな風に誰かを愛せるのか。
あんな風に愛してもらえるのか。

瑠璃と喧嘩しているからか、なんかすっげぇネガティブになった。

『正直な気持ちを伝えれば・・・』

紫乃の言葉が甦る。

俺はポケットに入っていた560円を取り出した。
明日また・・・ちゃんと謝ろう。
そう思って俺は目を伏せた。



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あとがき
なんか、思ってたより長引いてしまいました。
色々詰め込んですみません(泣)
次の話はもう一人の夢主さん視点になります。



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