俺達は急いでいた。
化け狐を筆頭に駅へと向かう。

俺達の前を歩く小さな狐は
ふさふさの尻尾を左右に振りながら
どこか得意そうで、なんかムカついた。


駅で霊美が切符を買う。
それを手渡されて驚いた。

「おまっ!!この場所っここから二時間はかかんじゃねーか!!」

「そうだよ?しょうがないじゃないか」

そこに書かれていた目的地は、ここから大分遠い。
俺はため息をついた。

「別についてこなくてもいいんだよ?」

そう言われて一瞬悩んだが、寅次郎と紫乃の行方が気になるのも事実。
俺はついていくことにした。

ホームで電車を待つ間、瑠璃に電話をかけてみる。
が、相変わらずあのアナウンスのまま。
メールも、着信もねぇみたいだし
やっぱまだ怒っているんだろう。

ごめん。

それだけを打ったメールを削除した。
こういう時、俺はどうしていいかわからないからだ。
女と喧嘩なんてしたことはない。
何故なら喧嘩になったら最後。
連絡を取らないようにするからだ。

今まで、色んな女にヒステリーを起こされて来たが
面倒になってすぐ別の女に乗り換えた。

そういえば瑠璃とこういう風になるのは初めてだな。
俺はケータイのディスプレイを見つめる。


『どうかされましたか?』

「え、あ」

ケータイを見つめながら顔をしかめる俺に、紫乃がそっと問いかけてきた。

『何か思い悩んでいるようなので』

「・・・ちょっとな。」

『気持ちを伝えるには素直になることですよ。素直に思っていることを言えばいいのです。きっと相手もわかってくれますよ』

紫乃はそう言って笑った。
俺は見透かされているのか?
って言うくらい的確な紫乃の言葉。

俺は瑠璃に謝らなきゃならねぇ。

俺はメールを打った。



電車に揺られて二時間とちょっと。
ついたのは地方の田舎街。
寂れた駅前の商店街を抜けて、前を歩いていた
化け狐がコーン。と鳴いた。

「なんだよこいつ。コンコンうるせぇな」

「どうやらついたみたいだね。」

狐はある一軒家の前でコンコン鳴く。
それは古ぼけた普通の民家だった。
資産家と聞いていたから、もっと大豪邸かと思ったが
それからは大分かけ離れている。

「なんだよ。ふつーの家じゃねぇか。こいつ間違ってんじゃねぇのか?」

「いや。寅次郎さんは確実にこの家にいるようだよ?狐狢狸の嗅覚は狂うことはないからね」

霊美はそう言ってずんずん歩いていくと
チャイムを鳴らした。
マジで行くのかよ。違ったら凄く。
物凄く恥ずかしい。

「はい。どちら様でしょうか?」

チャイムを鳴らしてしばらくすると、ガラガラと引き戸が開き
細身のオバサンが出てきた。
目の回りがほんのり赤く、鼻声で
時折ずずっと鼻をすすっている。

「あ、えと。俺達はー」

「ここは佐々木さんのお宅でよろしいですか?」

霊美はなんの躊躇いもなく、そのオバサンに尋ねる。

「え、そうですけど・・・どちら様で?」

「ここに寅次郎さんというご老人はいらっしゃいますか?」

「それは私の父ですが・・・。失礼ですけど、父とどういった関係で?」

どうやらこのオバサンは寅次郎の娘らしい。
オバサンは怪訝そうに俺達を見つめ、眉を寄せた。

「ちょっとした知り合いです。すみませんが失礼しますよ」

「え!!?ちょっと!!!困ります!!」

霊美は俺の腕を掴むと、すげぇ力で引っ張った。
オバサンを掻い潜り、中へ入ると靴を脱ぎ捨て
ズカズカと中へ入っていく。

奥の襖はピシャリと開ければ、白衣を着た医者らしき男と
床に伏せる寅次郎らしき老人がいた。

「あ、あなた達は!!?」

医者もさすがに驚くだろう。
見知らぬ俺と
見知らぬ天パーがいきなり入ってきたのだから。

霊美はそれを無視すると、寅次郎が横たわる布団の側にどかりと腰をおろした。
俺もつられるように腰をおろす。

寅次郎はか細い呼吸を繰り返し、今にもその呼吸が止まりそうだ。


「さぁ紫乃さん。わたしの体を使っておくれよ」

その言葉に紫乃が目を見開いた。
霊美の奴。紫乃を自分の体に取り憑かせる気だ。

『だめです。それじゃあ貴女の体に負担をかけてしまう』

紫乃はそう言って首を横に振る。
そうすれば、天パーは不気味な笑みを浮かべた。

「わたしを誰だと思っているんだい?一体、二体憑依されようが、なんともないよ」

紫乃は躊躇いながらも、ふわりと消えた。
その瞬間、霊美の体がガクンとうなだれ
フラリと倒れそうになったのだ。

「お、おい!!」

俺は咄嗟にその体を支える。
しかし直ぐに霊美は意識を取り戻し、瞳を開いたんだ。








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