風呂を出た後、俺はもう寝ちまおうとそのまま歯磨きを始めた。
歯を磨きながら、今日一日を振り替える。
鏡に映る自分の顔は疲れきっていた。

俺はうがいをして、水を吐き出した。
タオルで口を拭きながら、顔を上げて目を見開く。
鏡の中の俺の背後に変な女が立ってるんだ。
最初はあの天パーかと思ったが
どうやら違う。
茶色の長い髪、ニヤニヤ笑う口元。
何よりその恨めしそうに俺を睨む目が印象的だった。
バッと振り向くが、そこには誰もいなかった。

「な、なんなんだよ!!」

俺はさっさと頭を乾かし、足早に自分の部屋へ向かう。

ドサッと倒れこむようにベッドへとダイブした。
体のダルさが尋常じゃねぇ。
季節外れのインフルか?と思うくらいに俺の体は言うことを聞かなくなっていた。

そんなとき、ケータイが鳴った。

なんとか体を動かし
ケータイをとって電話に出た。

『もしもし?エース?』

「・・・おー。瑠璃か」

電話は瑠璃だった。

『大丈夫?なんかすっごく具合悪そうだけど・・・』

「あー、大丈夫。多分風邪だろ、風邪!」

『ならいいけど・・・あのさ。エース。』

俺は瑠璃に心配かけたくなくて、わざと元気なふりをした。
電話の向こうの瑠璃は何か言いたげに、
あの、えと、とか繰り返してる。

「なんだよ?どうした?」

『えと、エース。・・・誰かと一緒なの?』

「は?」

俺は部屋を見回す。
勿論俺一人だ。テレビもついてないし、喋っているのは俺だけなんだ。

『さっきから、・・・女の人が、笑ってる声・・聞こえるんだけど』

「な、なに言ってんだよ?!」

俺は先程の洗面所での出来事を思い出す。
瑠璃のその言葉に、俺はゾクゾクと悪寒が走った。

その時だった、ドカンっと部屋の扉が開く

「うわぁああ!!」

『ど、どうしたの!!?エース!!』

「わ、わりぃ!!後でかけ直す!!」

俺は電話を切ると、部屋の扉を蹴破った天パーを見つめる。
奴はモシャモシャとコンビニのおにぎりを食いながらズカズカ俺の部屋に入ってきた。


「ひっ人の部屋に勝手に入んじゃねぇ!!」

「だから言ったろう?気を付けたまえって・・・」

霊美はおにぎりをゴクンと飲み込むとため息混じりで呟く。

「な、なんだよ・・・」

ズカズカと俺に近づくと、ニヤリと笑う霊美。

「君に憑いてる生き霊は、君しだいで良くも悪くもなるっていったはずだよ?エース君」

「そ、それがなんだよ!俺ぁそんなもん信・・・」

「そうかなぁ?これだけ強くなってる霊なら君にだって見えてるはずだよ?たとえば・・・鏡越しとかにねぇ」

霊美の言葉に俺は言葉を飲み込んだ。
さっき鏡に映ってたのは・・・。

「キシシシシ。しょうがないなぁ君って奴は」

霊美はそう言って、学校でサボやサッチの額に貼ったあの札を取り出した。
それをものすごい勢いで、ベチンッッと俺の額にはっつけた。

「いだっっ!!」

その瞬間、体のダルさは嘘のようになくなり
体ってこんな軽くなんの?ってくらい軽くなる。

「どうだい?少し軽くなったんじゃあないか?」

「あ、・・・あぁ。」

「キシシシシ。それにしても。君って奴は罪な男だ。」

「あァ!!?どういう意味だよ!!」

霊美はくるりと踵を翻すと、俺の机の引き出しをガラガラと開ける。

「てってめぇ!!!人の・・・」

霊美が引き出しの奥から取り出したものに、俺の勢いが収まる。

「どういう意味かって?・・・キシシシシ。こういう意味だよ」

霊美が持っていたのは黒いケース。
それの蓋を開けさかさまにすれば、バラバラと床に落ちる中身。
それは捨てようと思っていた元カノ達との思い出だった。
捨てよう、捨てようと思っていて
完璧忘れていた
指輪や、写真。手紙に、手作りの贈り物・・・。

「男という生き物は、本能的に元恋人のものや思い出を溜め込むものらしいが・・・溜め込んでいいものと悪いものがあるんだよ」

そう言って霊美は手紙と、手作りのストラップを拾い上げる。

「特にこういったもの。手紙は言霊になるし、お手製の贈り物は念がこもる。キシシシシ。それが霊の媒介にもなるのを知っているかい?」

霊美は楽しそうに笑いながら続けた。

「つまり、君がこの物を持ってる限りこれらを媒介にしている生き霊は憑いて回る。まぁわたしが言えることは、今の女とナニをやっても結構だが、過去の女は精算しといた方がいいってことだ。」

そう言って霊美はポトリとそれらを床に落とす。
ヒラヒラと舞う手紙が静かに着地した。

「さっき君に体調不良をもたらしていた女はこう言っていたよ?"好きなの。愛してる"。キシシ・・・本当に罪な男だねぇ」

そう言って霊美は床に散乱した写真の中から1枚手に取ると俺に見せてきた。
俺はそれを見てぎょっとする。


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