「チチカナーーーー!!!」

焼けるように熱く痛む。
ブツリと千切れたそこからは
赤いしぶきが舞った。
ぐらりと倒れそうになる体を咄嗟にルピタが支えれば
どくどくと止めどなく溢れ出す血液に
瞳を揺らす。


チチカナの左腕は、無惨にもミラボレアスの牙により
食いちぎられたのだ。

「・・・っ、は、・・は」

浅く呼吸をしながら、痛みを逃そうと必死なチチカナに
エース達も駆け寄る。

「おい!!チチカナ!!」

「出血がひでぇよい!!おい!誰か止血剤持ってねぇか!!」

「チチカナちゃん!!っくそ!!」


ミラボレアスは最後の力を振り絞り、高らかに笑う。

「ふ、はは!!ははははは!!!裏切り者には血の洗礼を!!」

そんなミラボレアスの息の根を止めたのは、ミラルーツの牙だった。
下から突き上げるように、その首もとへ噛みつけば
ミラボレアスは断末魔を上げてその巨体を地面へと打ち付ける。

ぐぅっと喉の奥から空気が抜けるような音を最後に、ミラボレアスは動かなくなった。
次第にその死体は溶けだし
後に残ったのは老いたバシルそのものだった
その顔は勝利に満ちたように笑っていた。

周りにいた銀の集団も、その術が解けたようにガタガタと崩れ行き
残ったのはその鎧のみ。
異様な光景に、応戦していたギルドナイト達も
恐怖さえ覚える。

「チチカナ!!」

マーベルは大剣を即座にしまうと、血だらけのチチカナに駆け寄った。

「おい!しっかりしろ!!」

「マー、ベルさん。すみ、ません。迷惑ばかりかけま、した。」

「っバカいうんじゃねぇ!!」

笑いかけるチチカナに、マーベルはヒュっと短い呼吸をした。
そのチチカナの表情は、まるで死を悟ったかのように柔く微笑んでいたからだ。

「し、止血剤です!!僅かしかありませんが!」

コマチはポーチから止血剤を取りだし、震える手でそれを処方する


「・・・だ、だめです!止まらないっ」

涙目でチチカナの傷口を押さえるコマチ。

「どうしよう!チチカナっ!やだ・・・」

錯乱するルピタの前に、すっと震える小指が差し出される。
それは血まみれで、ルピタはハッと両手で小指を包むように握った。

「なか、ないで、下さい。・・・約束です」

掠れた小さな声で紡がれるその言葉。

ルピタの脳裏に甦るのは幼い頃交わした約束だった。

「チチカナっ・・・やだよ!!」

「これが、わたくしの、償い・・・です。世界へ、償わなくては、なりません」


そこへすぅっと頭を垂れたのは、ミラルーツだった。
一同は間合いを取ると、その白い龍を睨む。

「チチカナに何する気だ!!」

ルピタはぎゅうっとチチカナを庇うように抱き締めると、涙目でミラルーツを睨む。

『償いとは、何か』


ミラルーツが地に響く声で呟けば、一同はぎょっとした。

「しゃ、喋った!!」

「び、びっくりしたよい!!」

ミラルーツはその顔をチチカナに近づける
と、スッとその瞳を細める。

『死だけが償いではない。』

「は、それは、どういう、意味でしょうか?」

ミラルーツはぐぐっと首をあげ、天を仰ぐ。

『生きる事も償いだ。我が主君となる覚悟。それは私と共に生きる覚悟だ。私はお前の左腕となり共に生きよう。そしてお前の命が尽きるその日まで私と償うのだ』

「そ、れは・・・」

チチカナが目を見開いたのと同時に、真っ白な閃光が辺りを包んだ。
その眩さに、一同は目を瞑る。
その中でミラルーツはさらに続けた。

『生きよ、全ての生命ある者達よ』

次に一同が目を開いたとき。
そこには眠るチチカナ。

彼女の食いちぎられたはずの左腕が綺麗に甦生されていた。

そこには
まるでミラルーツをその腕に宿したように
神々しい白い鱗が施されている。

「チチカナ・・・?」


ルピタがそっとその頬に触れれば
ほんのり温かく
上下する彼女の胸は、その生を伝えていた。








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