辺境の島。
それは誰も立ち入った事のない未開の地。
辺りには古代に栄えていたであろう
文明の残り香が飛散する。
霧が濃く立ち込められたそこに
それはあった。
ボロボロになりながもその姿を遺す
古代の宮殿だ。
あちこちに生えた緑色のコケ、亀裂からその存在を主張する草木。

その宮殿は今にも自然に飲み込まれてしまいそうだ。

そこに二つの影がある。
バシルと名乗ったあの仮面の男と、その傍らに生気のないチチカナ。
二人はただ、霧がかる向こう側を見つめていた。


「もうすぐだ」

「・・・」

「もうすぐ私の野望が完成する。」

その時だった。
二人の元へ銀色を纏った部下がやってきて
バシルに何かを耳打ちする。

するとバシルは肩を揺らし不気味な笑いを噛み殺した。

「人間よ。どこまで愚かなのだ。破滅はすぐそこにあるというのに」

傍らのチチカナを見つめ、その仮面の下の口角が上がる。

「すぐに手配しろ。」

バシルが部下に命じれば、部下はすぐさまそこを後にした。






辺境の島の最北端。
そこに、マーベルが送り込んだ追跡班の
小さな拠点があった。

「隊長!」

「ご苦労。奴等の動向は?」

「つい先日まで慌ただしく飛竜が舞っていましたが、今は嘘のように静かです。・・・そちらの方々は?」

追跡班の一人が白ひげ海賊団の面々を怪訝そうに指差した。

「ああ。こいつらは協力者だ。あのヘンテコな虫もこいつらの所有物でな。色々と力になってくれてる。挨拶しろ」

マーベルがそう言えば、追跡班はバッと頭を下げる。

「おー。怖ぇババァ」

「ババァ!怖いぞ!!」

「・・・エース。ジェイク。縛り付けて飛竜のエサにしてやろうか?」

「「すいませんでした」」

そんなやり取りも程々に、ギルドナイトと白ひげ海賊団は鬱蒼とした森を進んだ。

「うわぁ。すっげーなぁ。」

「にゃ!にゃにゃ!虫が!虫がぁああ!!」

サッチはキョロキョロと辺りを見回し、リィリィはそのリーゼントの上で飛来する小さな虫を避けている。

「気を付けてください!神経毒のある虫もいますからねー」

「え!?ルピタ!それ始めに言えよ!俺虫除けスプレーしてねーよ!死にたくねーよ!うわぁあああ!!」

「やかましいよい」

騒ぎながら先を急ぐ一同が森を抜ければ、そこには霧がかった崩れかけの宮殿があった。

「こりゃあ驚いた。昔はこんな辺境の島に文明が栄えてたんだな」

マーベルがその宮殿を見上げ、呟いたその時だった。
バサバサという羽音に、凄まじい咆哮。

まるで宮殿を守るように金と銀の番いが現れたのだ。

「にゃーーー!!!リオレイアの希少種に、リオレウスの希少種にゃああ!!」

「うぉおおお!!金ぴか!!」

サッチとリィリィは目をかっぴろげて叫ぶ。

「ありゃあロックラックで見た飛竜だよい!」

「すげーな!なんかキラキラしててゴージャスな奴だ!」

「エース隊長!呑気な事言ってる場合じゃないっす!」

ルピタは即座に大剣を構える。
マーベルやその部下も武器を取りだし構えた。
ジェイクとコマチは初めて見るその飛竜の番いに
少々怯みながらも携えたその武器を取ったのだ。


「よくやって来たな。人間よ。あの飛竜の大群と私の部下達を掻い潜るとはよくやったものだ」

その声に聞き覚えのあったエースとルピタはその方向へ視線を向けた。
その姿は宮殿へ続く階段を一歩、また一歩と
静かに降りてくる。

「・・・バシル!!」

「また会ったな。若きハンターと炎の青年」

バシルはくつくつと笑うと、ピタリと止まった。

「バシル・オ・ロンド。だな?」

大剣を構えたマーベルがその眼光をバシルに向ける。

「バシル・オ・ロンド・・・。そう呼ばれた時代もあった」

バシルはそう言って仮面を外した。
その姿に一同はごくりと唾を飲み込んだのだ。
顔面の右半分が腐り、それを保護するように覆う黒い龍の鱗らしき物体。
そして左半分は、50年前の人物とは思えない程若い。

「私がそう呼ばれていたのは、まだ私が愚かな人間だった時の話だ。今はこの世界に君臨する竜王。その名前で呼んで欲しくないものだ」

「はっ。ほざけ。かつてはギルドナイトの中でも有能だったあんたが・・・堕ちたもんだよ」

マーベルの言葉に、バシルはピクリと反応した。
そして、ギロリとその左目を動かし一同を睨みつけたのだ。
覇気にも似たその威圧感に、一同が数歩後ずさる。

「グラララ。こいつぁ嫌な気を持ってやがる」

白ひげはそう言ってニヤリと笑いながら薙刀を持つ手の力を強めた。

「墜ちた?いや違う。私は見つけたのだ。本来この世界には支配者が必要なことを。その支配者は人間ではない、太古からこの地を知る竜であることを。それを知ったのは、50年前の今日だった。」

「・・・50年前・・・」

「聞かせてやろう。私が見つけた世界の全てを」

バシルはそう言って笑うと
語り出す。


「あれは50年前。私はとある小国のその国王からある任務を任された。それは伝説の代物である古龍の血の献上だ」

古龍の血。
その単語にマーベルが眉を寄せる。
それはその名の通り古龍から取れる血であり
無限の可能性を秘めているとされている。

「祖龍ミラルーツを知っているか?」

「ああ。でもそりゃあ古文書に記されているだけの伝説上の生き物だ。存在などしない」

そう。ミラルーツは
古より語られる物語に幾度となく現れる
全ての龍の祖と呼ばれる存在だ。
しかし、それを見たものはなく
その存在は伝説とされている。
マーベルがそう言い放てば
バシルは大声で笑った。


「クク。それが愚かだというのだ人間。祖龍ミラルーツは存在したのだよ。私はその任務を任された後様々な文献を読み漁った。そこで知ったのだよ。古龍の血は様々な呪術を掛け合わせる事で無限の可能性を引き出す事が出来ると・・・。国王がそれを何の為に欲しているのか、私にはすぐに分かったさ。それを使い国を強大にしたいという欲があったのだろう・・・そして、分かったことがもう一つあるそのミラルーツはこの辺境の島の宮殿奥深くに眠っているということだ」

「ミラルーツが!?」

「そ、そんな!実在したなんて!」

辺りにざわめきが起こる。
が、白ひげ海賊団にその存在を知るものは誰一人としていない。
驚くルピタに、エースがこそりと耳打ちをした。

「みらるーつってなんだよ。そんなにすげーのか?」

「ミラルーツは全ての龍の祖とされる、伝説上の龍の事です!古龍と分類される龍は沢山確認できますが、ミラルーツだけは伝説として名が残っているだけなんです。それが存在してたとなれば、すごい事ですよ!」

エースは頭に?を浮かべながら、ふんふんとその話を聞く。
その間にも、バシルの話は続いた。

「そしてそれと同時に出てきたのは竜操術と呼ばれる謎の秘術だ。私はまるでとりつかれたようにそれらの術の研究を行った。今思えばそれも運命だったのだろうな。そして任務に赴いた私たちは、言われた通りこの地を踏んだのだ。確かに奴は存在していたよ。白く神々しい体にいくつも刺さった封印槍。そこから流れ出る血液。私は見ていてとても不思議な感覚に陥った。しかし、そこで私たちを待っていたのは古龍だけではなかったんだ」

「どういう事だ?」

「私たちを取り囲むように配置された、王国の兵士。そしてニタニタと笑う国王。これが何を意味するのか、瞬時にはわからなかった。そんなことを考える余裕もなく、兵士に殺されゆく私の部下。そこでハッとしたんだ。私たちは今から使われるのだと」

バシルはそう言って肩を震わせる。

「使われる?それは・・・」

「呪術の知識があった私には分かった。呪術を行うには、その結果に見あった生け贄が必要なのだ。古龍の血と、私たちの命を使い国王はその願いを叶えたのだ。小さな小国はその日以来絶大な権力を誇る大きな大国へと姿を変える」




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