それは悲鳴と共に仰け反り、姿を表した。
「・・・やっぱり」
ルピタはそう言ってその者の姿を睨み付ける。
それはグルルルと喉を鳴らし、辺りにいるもの全てを威嚇するとふわりと間合いを取った。
長い尾をまるで鞭のように床に叩きつけながら、牙を剥き出しにして人間を睨む。
「し、白いナルガクルガ!?」
ジェイクが目を見開いて叫んだ。
「ありゃあ、ロックラックにもいたよな!?」
サッチがリィリィに振れば、リィリィは険しい顔で呟いた。
「そうにゃ。でもあれは、そのナルガクルガの希少種。通称"月迅竜"と呼ばれる種類にゃ!!」
モビーの船に潜んでいたもの。
それは最近になってその姿が確認された
ナルガクルガの希少種だった。
通常種、亜種の体毛とは違う、月白色の艶やかな体毛をもつナルガの希少種。
比べれば体は二回りほど大きく、極めて獰猛な性格
そして決定的な違いは、前者の二種にはない
ある能力だ。
それは霧隠れと呼ばれ、姿を消す事が出来る。
熟練のハンターでも見分ける事が困難になるという霧隠れ。
その為このナルガの希少種は
不可視の迅竜として恐れられているのだ。
その白い体毛に月の光を屈折させ、夜霧に自身を紛れ込ませることによって
姿を消す事が出来る。となっているが
その生態には謎が多く、まだ正確な解明は出来ていないという。
「へっ。ナルガの希少種まで送り込んでくるたぁ気合い入ってること・・・」
マーベルはそう言ってニヤリと笑った。
「グラララ!!また尻尾引きずり回して飛ばしてやるよ!ハナタレの化け物がぁ!!」
白ひげは愉快そうに笑う。
「た、大変だ!!空を見ろ!!」
一人のクルーが叫んだ。
その言葉に弾かれて、上空を見上げれば
空を覆う飛竜の大群。
その中でマルコが一人、攻撃を食い止めようと舞っている。
「大砲を上空へ向けろ!!マルコ隊長を援護するんだ!!」
大砲班が全ての大砲の砲筒を上空へ向ける。
「私は見張り台に登りそこから狙撃します!」
コマチは素早くリロードをおこなうと、ライトボウガンを抱え見張り台へと走る。
上空の飛竜に気を取られていれば、目の前の迅竜はまたもや闇夜に消えた。
「気を付けて下さい!エース隊長!」
「あぁ!?お前に言われなくても分かってるってんだよ!!」
「ナルガは、モンスター界のハンターとも呼ばれるほど巧みな戦法を取ります!そこに更に消えるという能力がプラスされているので非常に注意が必要です!」
ルピタは自分と背中合わせになっているエースに叫ぶ。
忙しく黒目を動かし、その気配を辿っていく。
「見にくいでしょうが、先程マーベルさんがつけた傷から出血しています。その血を辿って下さい」
「あー!!ったくお前の世界の化け物は何でもありだな!!」
ワシワシと頭を掻くエースは、辺りを注意深く見回し
その出血部分を見つけようと、目を凝らす。
それはスッと姿を現した。
初めてナルガの希少種を目の当たりにし、唖然と双剣を構えるジェイクの前に。
今にも飛びかかりそうなナルガの希少種は
独特の鳴き声を上げた。
「なっ!」
ジェイクは目を見開く。
「っジェイク!!」
「避けて!!」
しかし、ジェイクは驚きのあまりか
足が動かない。
「っくそ!!蛍火!!!」
エースの手から放たれた無数の小さな光は、ナルガの希少種に向かい飛んでいくと
ボォっと音をたてて燃え上がる。
ナルガの希少種は怯むと、ジェイク前から間合いを取り
距離を取って着地した。
「ばか!!呆けてんじゃねーぞ!ジェイク!」
「わ、わりぃ!ありがとう!エース!」
ナルガの希少種は威嚇をしながら尾をビュンビュンと振り回し、尾にある棘を奮い立たせた。
そしてまたもや尾を振り回すと、その棘を三人に向かい飛ばす。
「うぉ!!?何かとんできた!!」
「希少種は、毒の棘を持っているんです!あの棘を奮い立たせ、それを飛ばして攻撃してきます!刺さったらめっちゃ痛い上に毒に冒されますよ!」
ルピタはゴロンと体を回転させ回避を図る。
そしてナルガの希少種が、自分目掛けて飛び上がったのを見はかり
思いきり大剣を叩きつけた。
その時だ、空から火球ブレスがモビーを襲う。
「きゃぁああああ!!」
「にゃああああ!!」
サッチと、リィリィは降り注ぐ火の球から逃げ惑っていた。
「サッチ隊長ぉお!!その頭にくっついてるフランスパンでどうにかするにゃああ!!例えば聖なるフランスパンの光とかで一網打尽にするにゃぁあ!!」
「ばばばば馬鹿いってんじゃねーぞ!!俺のリーゼントにそんな聖なるスキルついてわきゃねーだろうがぁああ!!あっつぅうーー!!」
尻についた火を必死に消すサッチ。
そんなサッチとリィリィの前に、ズドンと何かが落下して来たのだ。
「にゃ!?」
「おお!」
それは銀色の鎧を纏った
人。
その人物は、ガシャンとランスを構えると
リィリィとサッチに向かってその矛先を繰り出す。