水滴が滴り落ちる。
そこは薄暗い空間で、辺りはカビ臭さが漂っていた。
ひんやりとした空気がチチカナの頬を撫でる。
「・・・」
鎖で縛られた体。
動けばじゃらりと鳴る金属音。
その時、キィと扉が開いた。
入ってきたのは、あのシルバーソルを身に纏った集団と
仮面の男。
「・・・気分はどうですかな?」
「おかげさまで最悪ですわ」
チチカナは仮面の男を一睨みすると、ふふっと笑う。
「まさかとは思っていたが、お前のようなガキが持っていたとは」
「なんのことですの?」
仮面の男はクツクツ笑うと、チチカナに視線を移す。
「どうりで16年前。あの村から何も出てこなかったわけだ」
チチカナはその言葉にピクリと反応した。
その顔から笑顔が消えていく。
「16年・・前?まさか・・・!!」
チチカナの脳裏に浮かび上がる、幼き日の記憶。
炎に染まる森。
逃げ惑う人々。
つんざくような悲鳴。
『チチカナ!お逃げなさい!』
『おかあさまは!?おとうさまは!?』
『父さん達はあいつらを食い止める!この笛は決して渡してはいけない!持って逃げなさい!』
『お逃げなさい!走るのです!!一族の秘術を守るのです!!』
『女子ども関係なく皆殺しにしろ!!!笛と旋律を探し出せ!!!この村のどこかにあるはずだ!!!』
「まさか。わたくしの村を襲ったのは・・・」
「そうだ。私達だ」
チチカナはグッと奥歯を噛むと、身を乗り出した。
しかし柱に固定された身体はびくりともしない。
ガシャガシャと鎖の音だけが虚しく響く。
「なぜっ!!何故ですか!?どうして村を・・・!!!あなた方のせいでっ・・・村はっ!!お母様は!お父様は・・・!!」
仮面の男は
「何故?それは単刀直入に言ってやろう。私達はお前の一族がひた隠しにしていた秘術が欲しいのだ。」
「秘術・・・」
チチカナはその言葉に、ドキリと心臓を跳ね上がらせた。
「"竜操術"。太古の龍すらも操るといわれるその秘術。知らないとは言わせないぞ?」
「・・・そんなもの、知りませんわ!わたくしを殺しなさい。お父様やお母様を、村の皆を殺したように!!」
チチカナが仮面の男から顔を背ければ、ぐいっと髪を掴まれ顔を向けさせられる。
「殺す?笑わせるな。その秘術はお前の左腕の刺青と・・・お前の中に隠されていることは把握済みなのだ」
「・・・っ!!」
「その刺青には、一族にしか奏でられない旋律が隠されている。そしてそれを奏でられるのは・・・お前しかいない。古の戦闘民族にして竜操騎兵の生き残りが集結した一族"ユダの民"のチチカナ。」