わたくしはとんでもないことを・・・


『後悔するのはまだ早い。
我が主君となる覚悟があるか?ユダの民の少女よ』

その言葉に、チチカナはふっと顔をあげる。

それはどういう意味ですの?


『私の怒りも、私の裁きも。全てを従える力をお前は持っている。しかしそれをどう使うかはお前次第なのだ。私の力を持ってして、お前は何を望む?』

わたくしが望むのは・・・


わたくしが望むのは、目の前の争いを止め仲間を救いたい!


『・・・よかろう。なら醒めろ。この眠りから醒めるのだ』


まばゆい白い光に包まれて
チチカナはそっと目を閉じた。
次に目を開いたとき、そこは戦場だ。
粉塵が舞い、龍の炎が大地を燃やす。

チチカナはそっと笛の吹き口を近づけた。



「っち!!」

ルピタは受け身を取るとギロリと黒い龍を睨み付けた。
その強靭な体に大剣の攻撃はまるで効いていないようだ。

「っこのやろっ!!」

エースは炎の槍を繰り出すが、それすらも尾を一振りすればかきけされる。

「甘いな人間。我の力に朽ちればよい」

ミラボレアスはそう言ってその鋭い前足をエース目掛けて踏み出す。


「エース隊長!!」

それを見たルピタがすかさず飛び出した。


その時である。
それは鳴り響いた。
まるで風が鳴くようなその音色は
周囲の動きをピタリと止める。


「この音色。・・・まさか!!」

エースの面前でピタリと止まった鋭い爪。
ミラボレアスはぐぐっと長い首をその方向へと向ける。
そこにいたのは、音色を奏でる

チチカナの姿だった。

吹き口から口を離し、にこりと微笑むその様は
いつもの彼女で

ルピタの顔に笑顔が戻った。


「チチカナ!!!!」

「遅くなりましたわ。皆さん」


「うぉおお!!!チチカナちゅわーーん!!」

「やったにゃ!!戻ったにゃ!」

「全く。世話のやける奴だよい!」

「マルコの言う通りだ!」

「グラララ!!待ってたぞ!バカ娘」


辺りは一気に歓声に包まれる。


「貴様っ!!どうやって洗脳を・・・!!」

ミラボレアスはグルグルと喉を鳴らし、チチカナを睨み付ける。

「そこにいる"祖なる者"が、わたくしを導いてくれたとでも言いましょうか・・・」

「な・・・」

チチカナが微笑んだのと同時に、その黒い龍に噛みつく白い龍。
それは紛れもないミラルーツの姿だった。

ミラボレアスは悲鳴を上げる。
しかし、渾身の力を込めてミラルーツを
押し退けた。

「おのれ!!祖なる者の加護を受けたとでもいうのか!!!」

睨み合う二体の龍。
その間を縫うようにルピタがチチカナに駆け寄る。

「チチカナ!!よかった・・・っ!よかったよぉ」

「ルピタ。それに皆さんにもご迷惑おかけしました。申し訳ありません」

「怪我は!?どこも悪くない!?」

「ウフフ。大丈夫です」

再会もつかの間、二体の龍が激しくぶつかり合い始めた。
その衝突の際の振動は凄まじく、大地をグラグラと揺らした。

「うわわ!!とにかく皆の所へ!」

ルピタはチチカナの手を引いて走り出す。

ミラルーツはミラボレアスの暴走気味な攻撃をヒラリ、ヒラリとかわすと
その前足でミラボレアスの頭部を地面へ押さえつけた。
ズゥンという衝撃に地面が再び揺れる。



「私をコケにしおって人間!!!」


ギリギリと押さえつけられたミラボレアスが睨む先には
ルピタとチチカナ。
ミラボレアスはぐぐっと頭を上げミラルーツを押し退けると
その尾でミラルーツの体を吹き飛ばした。

「許さぬぞ!!裏切り者!!」

狙いを定められたのは走る二人だった。


「やべぇ!!あの化け物、あいつらを殺す気だ!!」

「させるかよい!!」

それに気づいたエース達も同時に地を蹴る。


鋭い牙が二人を襲う。
振り向いた時。

それはそこまで来ていた。

「チチカナーー!!ルピターー!!」


瞬間。
ルピタは目を見開いた。
舞うような赤に目が霞む。

「あ、・・・ああ・・チチカナーーーー!!」


ボタボタと地面を汚す赤に
ミラボレアスのニヤリと笑う顔が映る。


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