「はぁっ・・・は。」
「な、なんとか片付きましたね」
二人の目の前には、ブラキディオスそしてジンオウガが息絶えた姿があった。
ルピタはその大型モンスターに混じり倒れる銀色の集団に近づくと、膝を着き頭部の防具を取り払う。
「うっ・・・!!?」
腕で鼻を覆い、顔を歪める。
その様子に気づいたエースがルピタに近寄った。
「どうした?・・・っなんだこれ!?」
エースも目の前に横たわるそれを見て、目を見開いた。
頭部を取り払われたその人物の顔は腐っていて独特の腐臭を放つ。
まるで元々腐っていたかのような有り様に、二人は眉を寄せたのだ。
「これ・・・どういうことですかね」
「知らねぇよ。でも今この瞬間にこんなになるわけがねぇ」
「じゃあこの銀色の集団は、ゾンビって奴だったってことですかね」
「ゾンビ!?まさか・・・んなことあるわけ・・・」
エースもルピタも黙りこくってしまう。
あり得ない様に、考えても答えは出ない。
ルピタはそれをそっと横たえると、次にブラキディオスとジンオウガの死体へ近寄った。
「・・・どうした?」
悲しげに眉を寄せ、そっとそれらに触れるルピタにエースは視線を移す。
「操られてたんですよね。この子達は」
「え?」
「この子達はその、竜操術ってやつに操られてたんですよね・・・。なんだかな・・・。狩りをしてこんな複雑な気持ちは初めてですよ。あはは。おかしいですね。それを生業としているハンターの私がこんなこと言うの。」
「ルピタ・・・」
ルピタは頭部の防具を取り、二体のモンスターに黙祷を捧げていた。
そして瞳を開くと、エースに向かって微笑む。
「エヘヘ。すんません。」
「・・・お前」
そこへ二人を呼ぶ声が聞こえた。
「おおーーい!!」
「だ、大丈夫でしたか!?」
「ジェイク!コマチ!!」
やってきたのは息を切らしたジェイクとコマチだった。
「うん。こっちは大丈夫」
「そっか。ならよかった・・・。今回被害はそんなにねぇそうだ!怪我人は出たが、死者は出てねぇ」
ジェイクの言葉に、エースとルピタはホッと胸を撫で下ろす。
「ア、アーティアさんがギルドへ集まるように言っています」
「わかった。私も皆に報告しなきゃならないことがある。行こう」
ギルドは騒然としていた。
入口に溜まるハンター達はそわそわと中を伺っている。
「何やってんすか?」
その一人に声をかければ、弾かれたように話始めた。
「来たんだよ!!」
「来た?何がだよ?」
エースはそう言って眉を寄せた。
「決まってんだろ!ギルドナイトだ!」
「あの人間兵器達がマジで来やがったんだ!」
ルピタ達はひょいと中を覗く。
ざっと十数名だろうか、明らかに周りと違うオーラを醸し出したハンター集団がそこにいた。
皆ギルドナイトの正装防具に身を包み、何やらアーティア達専属ハンターと話をしている。
「あのー・・」
「ルピタ!エース君!無事だったかい!」
ルピタ達が恐る恐るギルドへ入れば、ギルドナイト達が一斉に四人に振り返った。
防具で顔を隠したその集団からは圧倒的オーラ。
「ルピタ!!?それにエース!!クソガキも・・・っ」
しかしその一人が異様に反応を示す。
「・・・え?」
「・・やべ」
ルピタ達は互いに顔を見合わせその一人に視線を戻す。
その声には聞き覚えがあったのだ。
「・・・まさか、マーベルさん?」
「・・・違う」
「いや、わざとらしい低い声でも、分かるよ?マーベルさんでしょ」
「・・・」
ジロジロ見つめるルピタにその人物はガクリと項垂れ
諦めたように頭部の防具を取った。
そこには見知れた人物。
あのマーベルだった
「た、隊長!!!」
「まずいです!人前で!!」
「お前ら。とりあえず黙っとけ」
マーベルはため息をつくと、ルピタ達の前へ
そして
「何でこんなところにいやがるんだ!!!!」
と一喝したのだ。
「・・・こ、鼓膜が」
ルピタはそう言って耳を塞いだ。
「まさかババァとまた会うたぁ思ってもみなかったな」
「ババァ!俺はクソガキじゃねぇぞ!」
「うるせぇぞクソガキ共!!さりげなくババァって言ったなこの野郎!!!」
エースとジェイクの頭に落ちるゲンコツ。
その痛さのあまり、二人は声も出さずに踞る。
「マーベルさん!?気付きませんでした!すみません!お久しぶりです!覚えてますか?アーティアです」
「アーティア・・・。ああ!ルピタの兄貴分か!大きくなったな!」
アーティアはマーベルに深々と頭を下げる。
「まさかマーベルさんが・・・あの特殊部隊の隊長さんだったなんて」
ルピタは驚きが隠せない。
「他言無用で頼むぞ?身分を明かすのは一応隊規違反なんだ。外にいる野郎共もだぁ!!外でチクったらただじゃおかねぇからなぁ!!」
マーベルが入口から様子を伺うハンター達に怒鳴れば、そのハンター達はガクガクと震え一斉に首を縦に振る。
「さて、悪いが再会を祝してる場合じゃねぇんだ。・・・おい。ルピタ。チチカナはどうした?」
「・・・それが」
マーベルの問いに、ルピタはエースを振り返る
エースはそんなルピタに眉を寄せた。
そんな二人にただならぬ何かを感じたマーベルが口を開く。
「何があった。全部聞く。話せ」
ルピタはマーベルと別れてからの事を話した。
ユクモ村で銀色の集団にチチカナが拐われた事。
そしてそれを追ってここまで来たこと。
「・・・」
マーベルはそれを黙って聞く。
「・・・チチカナが、さっきまでいたの。」
ルピタが震える言葉を放てば、マーベルがピクリと反応した。
「どういう事だ?」
「・・・っチチカナが。あの銀色の集団と共にいたの。チチカナは、竜操術を使える唯一の人物だって・・・リーダー格の男は言ってた。」
「それは・・・。チチカナがそいつらに協力してたって事か?」
マーベルがルピタに詰め寄ろうとすれば、エースが口を開く。
「あいつの目は正気じゃなかった」
「・・・何?」
「その親玉が言ってたんだ。まじないをかけたって」