「・・・っ!」

ティガレックスは別名轟竜とも言われる。
その咆哮の声量は周りのものを破壊する威力さえ持っていた。
性格は極めて獰猛。
四足を使ったその走行スピードは、飛竜の中でもトップクラスだ。

ルピタは大剣を構えて荒くなった息を整える。
幾度となく自分を襲う牙を、大剣で防ぎながら
的確にダメージを与えるが
山の主とまで言われるこのティガレックスの体力は中々削れない。
噛みつき攻撃を避け頭にその大剣を叩きつければ、悲痛な叫びをあげてティガレックスが怯んだ。

その隙を見逃さず、再び大剣を叩き込む。
そうすればバランスを崩したティガレックスが転倒した。
そこからラッシュで攻撃を繰り出す。
しかし、すぐに戦闘体勢を整えたティガレックスはブワリと飛び上がり間合いをとった。

雪山は吹雪に見舞われ、その視界は最高に悪い。
その中を飛ぶ雪のかたまり。
それはティガレックスが前足で飛ばしたものだった。
そのかたまりは、回避が間に合わなかったルピタを直撃する。

「っう!!」

雪の中を転がるルピタの体。

痛む四肢をなんとか動かし、彼女はポーチの中をまさぐった。
取り出したのは緑色の液体が入った小瓶。
俗に回復薬と呼ばれるそれを飲み干すと、空き瓶を投げ捨てる。
少しだけ傷が癒えた体をおこし、再び大剣を構えれば
霞んだ視界から飛び上がってくるティガレックスの姿を捉えた。

ヤバイ。

ルピタは直感的にそう感じた。
回避出来るかできないかのギリギリの距離まで迫ったその巨体が瞳に映る。

それはドォンという音と共に、ティガレックスの脇腹を直撃する炎。

ルピタは目を見開いた。

「!?」

「ルピターーー!!」

彼女の耳に届いたのはよく知る声だった。


「君は色々と凄いな。驚いたよ」

体をメラメラと燃やすエースに、アーティアが感嘆の声をあげる。
そんなアーティアに見向きもせず、エースの視線はギリギリ捉えられる化け物の巨体に向けられていた。

「まぁな。おしゃべりは後だ!行くぞ!」

エースはそう言って地を蹴る。
アーティアもそれに続いた。

「エース隊長!?アーティアさん!?」

「バカヤロー!勝手にほっつき歩くな!!」

エースはそう言ってルピタの頭をバシンっと叩く。

「いだ!!エース隊長過保護すぎる!!」

所々怪我のあったルピタだったが、比較的元気な様子にエースは内心ホッと胸を撫で下ろしていた。

「とにかく無事で良かったよ!」

アーティアはそう言って背中に携えていたガンランスを構えた。
ガシャンと音を立ててリロードをおこなうと、ティガレックスを睨む。

「あれがティガなんちゃらか」

エースはいつぞやにマーベルから聞いていたティガレックスの話を思い出していた。
四つん這いで這うように歩く恐竜のような化け物。
初めて見るその生物に、ニヤリと笑うと
直ぐに臨戦態勢に入った。

ティガレックスは怒り状態に入ったのか、体の至所の血管が赤く浮き出ていた。
そしてとてつもない声量の咆哮を轟かせる。

「エース君!気を付けろ!」

アーティアの忠告に、エースは不敵に笑ってみせた。

「うるせぇよ。俺を誰だと思ってんだ」

そう言って炎を纏い飛び上がると両腕を炎に変える。
そしてティガレックスにそれを槍のようにして放った。

「神火 不知火!!」

それは丁度ティガレックスの頭に直撃する。
怯んだティガレックスに間髪入れず、今度はアーティアのガンランスが火を吹いた。

「僕も負けてられないなぁ」

アーティアの砲撃はティガレックスの頭殻を破壊。

それをものともせず、ティガレックスは興奮状態で突進を始めた。

「うぉ!!速ぇ!!」

その巨体からは想像も出来ない速さで突進するティガレックスに、エースは驚く。

ルピタはその突進を回避すると、隙を見て脇腹を切り上げた。


しばらくすれば、さすがのティガレックスにも疲労の色が見え始める。
先程までのスピードは見る影もなく、口からはダラダラと涎を垂れ流していた。
突進はするものの、足をもつれさせ転倒する始末。

アーティアはそれを見て、ポーチの中からあるものを取り出すと
地面に埋め出した。

「何やってんだ?」

「シビレ罠さ。捕獲してギルドへ受け渡す」

そう言ってアーティアは笑った。

罠の裏手でティガレックスを待てば、案の定そこへ突っ込もうと最後の力を振り絞り全力で突進をしてくる。
そこでティガレックスの足があの円形の罠を踏んだ。
ビリビリと流れる電流に身動きが取れないティガレックスに向かい
アーティアは手早く麻酔玉を投げ込めば、二発ほどで
その怪物は眠りに落ちた。

「捕獲完了だね」

アーティアは何処までも爽やからしい。
清楚な笑みが見つめる先に、ティガレックスが眠る姿。

「それにしても気色悪い動きだったな」

エースは素直にティガレックスのあの独特の動きについて感想を述べた。
そんなエースの隣でルピタがバタンと仰向けに倒れると、大声で笑ったのだ。

「なんだよ。どうした?遂にイカれたか?」

「あははっ!ははっ・・・ひっひどい言い方ですね!!」

「いや。マジで頭イッちまったのかなって」

「違いますよぅ!ふふっ!なんか力が抜けちゃって・・・動けないです!助けてください!」

「はぁ!?」


このあと、エースはルピタを背負って山を降りることとなる。





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