「こ、ここれで、一通り村を回りましたが・・・どうでしたか?」

コマチの村案内が終わって、彼女はうつむいたまま呟いた。

「おぅ!俺の知らねぇ文化が栄えてっからよ。軽くカルチャーショックだな」

エースはそう言ってニッと笑う。

「でも、のどかですっげぇいい村だ。何より飯がうめぇしな」

「あ、ありがとうございます」

「そうだ!ジェイクがうめぇ温泉玉子があるって言ってたんだけどよ・・」

「あ、え、と。ユクモ温泉玉子ですか?そ、それならお土産屋に売ってます。み、見にいってみましょうか?」

コマチの提案にエースは顔を輝かせる。
その時だった。

ギルドの方が騒がしいのに二人は気づく。

「なんだ?なんかあったのか?」

「わ、分かりません」

「行ってみるか!」

エースはそう言ってギルドの方へと歩きだす。
コマチもそのあとを追った。

ギルドに入った二人が目にしたのは、血だらけのジェイクとルピタの姿だった。

ジェイクはあのあと、ルピタを担いで村へ戻ったのだ。
ルピタの方に意識はなく、ただ血だらけの腕をだらんと投げ出すだけで
ピクリともしない。

「なっ・・・どうしたんだ!!?」

エースとコマチが二人に駆け寄る。

「っはっ・・・ルピタが・・・チチカナがっ・・・」

ジェイクは錯乱気味に口を動かした。
するとコマチが素早く動く。

「ジェイク。ルピタさんを私の部屋に運んで下さい!」

コマチはルピタの傷口を見て眉を寄せる。

「早くしないとまずいです!」



ギルドに隣接する村長の家。
そのコマチの部屋にルピタを連れていくと
エースとジェイクは家の外で待つよう告げられる。
外で待っていれば、村長とギルドマネージャーがやってきて
何があったのかをジェイクに聞いた。

ジェイクは渓流であったことを
口にする。
噂になっていた集団と遭遇したこと
集団が口にしていた話。
そしてルピタが刺され、チチカナが拐われた事。

「じゃあチチカナは・・・」

エースの言葉に、ジェイクは俯く。

「ごめん・・・追いかけようとしたんだ。でも、ルピタの血は止まらねぇし、動かねぇしっ・・・それで」

震えるジェイクの肩をエースが掴む。
そうすれば涙を溜めたジェイクの瞳が、エースを捉えた。

「泣くな」

「っ・・・ごめんっ。俺、なんも出来なかった」

その時コマチが外へ出てきた。

「コマチ!ルピタは!?」

「傷は浅いので大丈夫です。しかし、刃先に毒が塗られていたのでしょうか・・・。毒による出血が酷かったので今解毒処置をしました。」

「・・・毒」

そこでジェイクはハッとする。
確かルピタを刺した人物が持っていたのは
猛毒を持つギギネブラの素材を使ったランスだったのだ。

「安静にしていれば、数時間で毒は抜けるでしょう」

コマチはそう言って俯いた。

「その集団は一体何が目的でチチカナを連れ去ったのでしょう・・・」

「女帝、見つけた、あのお方。この言葉がきになるねぇ」

村長とギルドマネージャーがぽつりと放つ。
その時だった。
村長の家の扉がバタンと勢いよく開いたのだ。
そこには息を荒くしたルピタが包帯を巻かれた姿で立っていたのだ。

ガリガリと大剣を引きずり、よろめきながら外へ出た彼女の目は怒りの色が見える。

エースはそんなルピタの姿に
あちらの世界で
バルボッサから自分を守ろうしたときの
彼女を思い出した。

コマチとジェイクは、片手で大剣を引きずり
村の橋から渓流に向かおうとするルピタを必死で止める。

「だめです!!ルピタさん!!まだ毒が抜けきっていません!動けば全身に回ってしまいます!!」

「・・・大丈夫。もう、へいき」

「ダメだよ!死んじまうって!!頼むから戻ってくれ!!」

「・・・死んだっていい。いかなきゃ・・・いかなきゃチチカナが殺される!!」

二人を振り切りよろよろ歩くルピタの前に、エースが立ちはだかった。
ルピタはギロリと血走った目でエースを睨んだ。

「・・・エース隊長。そこ退いて下さい」

「退かねぇ。戻れルピタ。隊長命令だ」

「・・・退いてください!!頼むからっ・・・ッガボ!ォェッ!!」

「ルピタ!!」

ルピタの口から吐き出されたのは、大量の血液だった。
それはビタビタと地面に染みを作る。
ゆらりと倒れる彼女の体を支えたエースは、そのまま抱き抱えると村長の家へと向かった。

「はっ・っおろして、くださいっ。いかなきゃっ」

「吐血しながらどこ行くっつうんだよ。」

「っ・・・殺される。チチカナがっ・・・殺されちゃう!!」

ルピタの瞳から溢れたのは大粒の涙。
エースはそれ以上何も言えなかった。

ルピタをベッドに下ろし、エースはベッドの端へ腰を下ろした。
その間、ルピタは嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる。

しばらくすれば、泣きじゃくる声は消え
代わりに規則正しい寝息が聞こえてきた。

エースは眠るルピタへ視線を移す。
そして彼女の頬を濡らす涙をそっと拭ってやったのだ。


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