湯煙で霞む視界。
その湯気は大きな温泉から立ち上っていた。
先客がいるようで、二人程の人影がある。

「おー!ジェイクとエース隊長がきたー!」

「ウフフ。お先に失礼してますわ」

「え?」

エースは聞き覚えのある声に間抜けな声を出した。
露天風呂のため、外の風が湯気をかきけしていく。
そこに現れたのは、タオルを巻いたルピタとチチカナの姿。

「・・・すいません。間違えました」

そそくさと去ろうとするエースをジェイクが笑いながら止める。

「エースいいんだよ!ここは混浴なんだ。最初はびっくりするかもだけど、慣れだよ!慣れ!」

ジェイクはそう言って温泉に飛び込んでった。
ジャバーンと大きな水しぶきをあげる。

「いやーん。エース隊長は女の人の裸が大好物だから食べられちゃーう」

ルピタはそう言ってエースを見れば
彼は盛大にため息をついた。

「間違っても食わねぇから安心しろよ。貧乳」

「はぁあああん!!?ひんっ、ひ・・・!今貧乳って言いましたよね!!?貧乳って!!!」

わなわなと震えるルピタを尻目に、エースは湯に浸かると一息つく。

「この村の温泉はとても有名なのですよ?」

「お、おぅ。そうなのか」

エースは目のやり場に困っていた。
何故なら、今まで気づかなかった
チチカナのスタイルの良さに困惑しているのだ。
しかしそれはすぐに驚愕の表情へと変わる。
チチカナの左腕には、何かの文字が彫られていたからだ。
彼女は、いつも左腕に包帯を巻いていた。
最初は怪我でもしているんだろうと思っていたエースだったが
これを見て、
ああ。この刺青を隠すためだったのかと
エースは納得する。

その視線に気づいたのか、チチカナはふわりと笑う。

「まぁ。人にはそれぞれ、抱えるものがあるものです。」

エースはふっとルピタに視線を移す。
自分に背を向け、ジェイクとアヒルのオモチャで遊ぶ彼女の背中は、普通の女とは違い
綺麗な筋肉がついていた。
あの重くて大きな剣を振り回す為に必要な筋肉なのだろう。
その背中には、いくつもの古傷。

エースはマーベルが言っていた話を思い出した。


『あいつらは、ああ見えて色んなもんを背負って生きてきた人間なんだよな』

アヒルを浮かべ笑顔の二人。
その一人であるジェイクは、兄の死を抱えているのだ。
彼女達はその笑顔の裏に何を抱えているのだろう。
そんなことを思うエースは
チチカナの声で我に帰った。

「人には過去があります。それを皆抱えて生きている。わたくしも、ルピタも、ジェイクも。そして・・・エース隊長も。」

エースは湯に映る自分の顔を見つめていた。

俺が抱えるのは・・・

「ウフフ。後ろにコソコソ隠れている子にも抱えるものはあるかもしれませんわね」

「は?」

チチカナは前を見つめて呟いた。
エースは後ろを振り返るが、誰もいない。

「・・・誰もいねぇじゃねぇか」

「あらあら。前より隠れるのがお上手になりましたわね・・・お久しぶりですわコマチ」

チチカナがそう言えば物陰から現れる、小柄な少女の姿。
タオルを巻いているところを見れば、おそらく入浴しにきたのだろう。



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