「エースっ隊長ぉお!」
ルピタの叫びがこだまする。
目の前のエースはいきなり力が抜けていくように膝をついた。
その両手には黒く光る手錠。
『 固形化した海って言われる鉱物で能力者はそれに触ると、立つことも出来なくなっちまうんだよ 』
ルピタの頭にいつぞやのエースの言葉が甦る。
あれが海楼石とやらで出来ているということは、彼女の頭でも理解できる事だった。
「下がれ」
バルボッサは立ち上がると、部下に命じた。
それを合図に、部下はエースから離れていく。
「滑稽だな。能力者って奴は」
「っは、うるせぇ」
「海賊でありながら、海に嫌われる。滑稽以外の何者でもねぇだろ?」
バルボッサはそう言って右腕をあげた。
そうすればエースの頭部を水が覆う。
「がぼっ!ごぼっ!!」
苦しさに顔を歪めながらも、エースの目はバルボッサを睨む。
「苦しいか?苦しいよな?」
バルボッサが腕を下げれば、水はばしゃりと床に染みを作った。
「げほっ!おぇっ・・ごぼっごぼっ・・はぁっ、はっ」
エースは息を整えながら、バルボッサを睨む。
「俺の親父はこれ以上の苦しみを負いながら今も生きている。お前の親父のせいでなぁ!!!」
「・・・知るかよ。んなこと」
バルボッサは、エースの髪を掴むと顔を上げさせた。
「なぁ鬼の子。俺を喰ってみろよ。その自慢の炎でな!!」
「はっ、卑怯な野郎だ。海楼石なんかに頼りやがって・・・それ無しじゃ俺に勝つ自信なんてないんだろ?」
エースはバルボッサを見つめニヤリと笑ってやる。
バルボッサはそんなエースを思いきり殴った。
「うるせぇ!!てめぇごときに俺の本気が出せるか!!!」
「っ・・・ぺっ!吠えてなルーキー。弱い犬ほどなんとやらってって言うしな」
バルボッサはエースの髪を乱暴に離すと、背を向けて歩きだす。
「計画変更だ。野郎共。今この場でこいつを処刑する」
バルボッサがそう言えば、部下達は一斉に銃を構えた。
「エース隊長っ!!!止めてっ・・・止めろぉお!!!!」
ルピタはバタバタと抵抗するが、よりいっそう締め上げる力が強くなる。
「処刑か。いいだろう。ただし条件がある。あそこのバカを解放しやがれ」
エースはバルボッサの背中を睨み付けながら呟いた。
「そうだな。いいだろう。おい女!聞いたか?隊長さんの最後のお言葉だぞ!!良かったなぁ!!部下思いの隊長さんで!!」
バルボッサはそう言って高笑いした。
「っエース隊長!!!」
「わりぃなルピタ。」
エースはそう言って笑う。
「っうぁあああああっ!!!」
ルピタは渾身の力を振り絞り、自分を捕らえている部下の股間を蹴りあげた。
拘束が一瞬緩んだのを見逃さず、素早くその手から逃れると
思いきりその腹を蹴りつける。
部下は何を言うわけでもなく、その蹴りに吹っ飛ばされた。
「やれ」
バルボッサが命じた。
その瞬間にルピタは大剣を拾い上げ、床を蹴る。
間に合え、間に合え、間に合え!!!
ルピタは心で念じながら、エースの元へ駆けた。
放たれる幾つもの銃弾。
キィンという金属が幾つもぶつかる音と、その銃弾に飛ばされたルピタの頭部の防具。
それが床に落ちると共に、エースが声をあげた。
「っバカ野郎!!!!!」
ルピタは大剣で銃弾を防ぐ。
防具のおかげでもあるが、体に弾が貫通することはなかった。
しかし、確実に体に衝撃を与えたであろう鉛弾。
それがぱらぱらと床に散らばった。
ぽたぽたと血が滴る。
それは頭部をかすった銃弾がつけた傷から溢れていた。
「あっはっは。部下思いの隊長さんの次は、隊長さん思いの部下か。泣かせるじゃねぇか」
「おい!ルピタ逃げろ!!聞こえねぇのか!!」
ルピタはよろける体を必死で支えるだけで、返事一つしない。
バルボッサは一歩また一歩と、二人に近づき
ついには銃をルピタの頭へ突きつける。
「隊長さんが守ろうとしてくれたのによぉ。バカな女だ。」
バルボッサが銃の撃鉄を起こす。
するとルピタの大剣を持つ手がピクリと動いた。
それは一瞬の出来事。
バルボッサの銃を持つ右手は、腕ごとバッサリと切り捨てられ
ボトリと床に落ちる。
「なっ・・・」
その素早さにバルボッサは目を見開いた。
「・・・エース隊長に、近づくんじゃねぇえええ!!!」
ルピタはその勢いで、右腕を押さえるバルボッサを蹴飛ばした。
「あんたが得体の知れない能力使うなら、それを使う前ににあんたの息の根を止めるまでさ」
「っぐぁああああ!!!やりやがったなぁあ!!俺の右腕をぉおお!!」
バルボッサの右腕が落ちたことにより、彼の部下の姿はユラユラと水になりばしゃりと姿を消す。
「くそっ!!俺の右腕っ!!!」
バルボッサは床に落ちた右腕に手を伸ばすが、それも水になり姿を消す。
その間に、ルピタはエースに付けられた手錠を外そうと躍起になる。
ガンガンと大剣の先で鎖を叩くが、ダイヤ並みの硬度を持つ海楼石の手錠はビクリともしない。