夜。

終電を降りたあたしは立ちっぱなしで棒の様になった足を引きずりながら、駅を出た。

「いってぇ」

やっぱ立ち仕事は酷である。
慣れているハズのヒールを履いていたってこれだ。
あたしはため息をつきながらも、駅前から少し離れた場所にあるおでんの屋台へ寄った。
このおでんの屋台で一杯ほど引っ掛けてから帰路につくのが日課だ。

これがあたし。野々宮レイナの二年後。

「おじさーん」

「おぅ。嬢ちゃん!今日は遅かったなぁ」

「仕事がたまっててね。あ!いつものやつおねがい」

店主のおじさんは、あいよ!と威勢のいい声で返事をした。
しばらくすれば、大根にはんぺん。
熱燗がカウンターに置かれる。

「これこれーっ!」

あたしは割りばしを割ると、大根を半分に割った。

「なんだか疲れた顔してんねぇ。」

おじさんが呟く。

「そーかな?」

あたしは大根をハフハフしながら呟いた。


アイツと別れて早二年。
長い月日が経とうとしている。
あの日もこんな・・・
ちょっと涼しくなった秋の夜だった。

熱燗をお猪口に注いで、くいっと飲み干せば体がほんわり温まる。

「仕事で疲れてるわけじゃあなさそうだね」

おじさんがぽつりと言った。
あたしはその言葉に箸を止める。

「その顔は・・・昔の男を思い出してる顔だな?」

おじさんはそういって、ニカッと笑った。
前歯の銀歯がキラリと光る。

あれから、あたしはアイツのことを
忘れた日はない。
あれから、あたしはアイツのことを
思い続けてる。

「すごいねぇ。おじさん。エスパーなの?」

「図星かい?ははっ。エスパーならこんなシガイナイ仕事してないさ!」

おじさんは豪快に笑った。

「その人とは別れちまったのかい?」

「うん。まぁそんなとこ。・・・って付き合ってもなかったけど」

ほわほわとおでんから上がる蒸気。
その向こう側でおじさんはウーンと唸る。

「なら頑張って気持ちを伝えてみたらどうだい?」

おじさんの言葉にあたしは笑った。

「ムリなんだ!その人・・・すっごく遠くにいっちゃったの」

「そうかい・・・」

おじさんは何かを察したのか、それ以上は何も聞かなかった。

「嬢ちゃん!空見てごらん」

おじさんは話題を変えるように空を見上げた。
つられてあたしも空を見上げる。

「わぁ・・・」


そこには満点の星空が広がっていた。
あの一番輝いてんのが、アイツかな?
なんて、らしくない事を思ってみる。


「こんな星がキレイな夜は、何か奇跡が起こるかも知れねぇな!」

「あははっ!奇跡ねぇ」

おじさんは空を仰いでまた豪快に笑う。





「オヤジ。いいか?」

「へい!らっしゃい!どうぞおかけんなってくだせぇ!おっ。あんちゃん見かけねぇ顔だな!」

そこへ一人の男性客。
その声はすごくアイツに似ていた。
ああ。またアイツの事が頭を支配してしまう。

あたしははんぺんを頬張りながら、隣に座ったその男をチラリと横目で見た。

はんぺんを噛むのを思わず止めてしまう。

なぜならその横顔は・・・。
いや他人の空似さ。
そんなわけがないのだから。


こんな星がキレイな夜は、何か奇跡が起こるかも知れねぇな!



おじさんの言葉がリプレイされた。
あたしはその奇跡を星に願う。



続編へ続く



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