その日の合コンは盛り上がるわけでもなく
目の前のエリートにただイラついただけだった。

俺は偏差値がいくつ。だの
将来は父の会社を継ぐんだ。だの
今まで付き合ってきた女はみんなエリートだった。だの

頭に来たので、酒ぶっかけて帰ってきた。
エリナとルカも同じ気持ちだったらしく
そのあと、女だけの反省会をした。


フラフラと酔った足取りで、帰路につく。
エースに出会ったのも、こんな夜だった。
あたしはアパート前のゴミ捨て場で立ち止まる。

こんなとこにいるはずもないのに。

誰が歌ってたか忘れたけど、こんな歌があったな。
この間芸人がものまねしてたっけ。

あたしは自嘲気味に笑って、自分の部屋向かう。
鍵を開けて中へ。
電気をつける。
パッと明るくなったおかえりのない部屋。
エースが笑って、おかえりって
言ってくれることはもうない。

あたしは俯いて唇を噛みしめる。

「おかえり」

「え。」

聞き覚えのある懐かしい声にハッと顔を上げれば

そこにはさっきまでいなかった

今一番あたしが

あたしが会いたい奴が立っていんたんだ。

上半身裸で
オレンジのテンガロンハットをかぶって
そばかすのある頬で
黒いふわふわした癖っ毛で
イケメンで
太陽のように優しく笑う

エース。


ああ。飲み過ぎたのか?
それとも頭がわいてしまったのか?

あたしは頭を二、三回叩いた。

「おいおい。久しぶりの再会なのに喜ばねぇのかよ」

「・・・エース」

名前を呼べば、あたしが大好きなあの笑顔で笑った。

「久しぶりだな!レイナ!」

あたしは持っていた荷物を投げ出して、彼に抱きついた。
ああ。いつぞやの体温だ。

「うおっ!びっくりさせんなよ」

「エースっ!エース!!」

泣きじゃくるあたしを撫でるエースの手。
顔を上げれば、エースはプッと吹き出した。

「ひでぇ顔っ」

あたしは急いで鼻水やら涙をふく。
エースから離れると、あたしは冷蔵庫からからビールを取り出した。

「ねっねぇ!座ってよ!久しぶりに飲もう!」

するとエースは困ったように笑う。

「わりぃな。そんなに時間ねぇんだ」

「え」

あたしの手からスルリとビールの缶が落ちた。
ゴロゴロと床を転がる缶の音がやけに耳障りだった。

「ど・・・どうして?早く座んなよ。ねぇ」

エースはテンガロンハットを深くかぶり俯く。
どうして?
帰ってきてくれたんじゃないの?
ねぇ、ねぇ、ねぇエース!!
あたしは喉まで出かかった言葉を発する事が出来ない。

彼は顔を上げた
そして

「わりぃ!俺死んじまった!!」

って
泣きそうな笑顔で言った。

「お前に、最後の別れが言いたくてよ。」

「・・・やだ」

「ほら!この間はいきなりで、まともに別れらんなかっただろ?」

「・・・やだ!!」

「だから・・・ちゃんと言いたくて」

「嫌だ!!聞きたくねぇよ!!!んなこと!!」

耳を塞ぐあたしをエースが優しく抱き締める。

「頼む。聞いてくれよ。レイナ。」

「っやだ・・・いゃぁ・・」

「俺さ・・・」

その時。あたしは気付いたんだ。
エースの腕がどんどん透けていくのに。
腕だけじゃない。
体も顔も・・・
どんどん。どんどん。

それは蛍火のようにキラキラと
沢山の光の玉になって消えていく
エースの体。

「あ。やべーっ。時間がねぇや」

「やだっ。エース!やだよ!」

さっきまで触れていたエースの体は、もう触れられなくなって
さっきまで感じていた体温は
感じられなくなって

「俺。お前に会えてほんとに良かった!」

「え・・・ーすっ!・・やぁっ・・やだぁ」

「もしまた会えたらよ・・・」




エースはニカッと笑って言った。






「もし会えたらよ・・・っ・・レイナっ!!俺の女になってくれ!」




彼は蛍火になって消えた。
それが・・・
エースがあたしに言った別れの言葉。


「いかないでよ!!!いかないでっ・・」

あたしはつくづく未練がましい女だと思う。
まだキラキラと残るわずかな蛍火をかき集めようと、手が空間を舞った。


「っうっ・・・うわぁあああああ!!!!!」

抱き締めることの出来ないものを抱き締めて、あたしは床に崩れ落ちる。


「バカッ!!バカ野郎っ!!誰があんたの女なんかにっ・・・勝手に消えたくせにっ。勝手に死んだ・・くせに!!」

涙が次から次へと溢れて床に落ていった。


「ほんっと自己中!!!・・・そんなこと言われてっ・・・残されたあたしはどうしろってんだよ!!!」

乱暴に拳を床に叩きつけた。

「あたしの気持ちもきかねぇでっ・・・。次会ったら殴ってやるからぁあああ!!!!」

きっと。
あたしの気持ちは届かない。
きっと
あたしの叫びは聞こえない。









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