彼の口から発せられた言葉により、あたしは目を見開いた。
彼は、優しく
そして力強く言ったんだ。

「レイナ。俺は死なねぇ。」

って

その顔は太陽のように明るく。
その顔は憂いを帯びていて・・・

あたしはまた泣いた。


「なぁレイナ。」

「ん?」

日も落ちた頃。エースは言った。

「俺。レイナの野菜炒め食いてぇ」

「え?」

あたしはピタリと動きを止めた。

「あっあんな不味いのまた食いたいの?物好きだね。あんた」

あたしはいつものように言ってやる。

「・・・あぁ。物好きだ。だから作ってくれよ」

「・・・」

そのエースの顔は、真剣であたしは言葉をつまらせた。

「いいよ。わかった」

あたしは冷蔵庫を覗く。
キャベツと、もやししかない。

いつかのように、キャベツともやしの粗末な野菜炒めを作った。
その味はこの間より良いものだったけど
相変わらず生焼けで、少し焦げていて
美味しいと言えるものじゃなかった。

なのに・・・

なのに。


「うめぇ。すっげぇうめぇよ」

エースはそう言って笑ったんだ。


それからはいつものように、風呂に入って、
晩酌をして、
歯磨きをして・・・。

いつもと変わらずに床につく。

でも。その日の夜は違った。

「レイナ」

暗闇の中エースの声が耳に入る。

「何?」

「今日一緒に寝てもいいか?」

「え?!」

あたしは驚いて体を起こす。
その瞬間に
あたしはエースに抱き締められた。
ギシッと軋むスプリング。
その音が闇に溶ける。

エースに抱き締められた勢いであたしはぐらりと体制を崩した。

天井。
エース。
そしてあたし。

あたしはエースに組み敷かれるようにベッドに沈んだ。

「エッエース・・・」

「おぅ。わりぃな。安心しろ!襲いやしねぇから」
エースはあたしの髪をひと撫ですると、横へと移動した。
うわっめっちゃびっくりしたわー!
あたしはドキドキとうるさい心臓の音を隠すように
彼に背を向ける。

シングルのベッドに
二人はきつい。
エースの体温が背中越しに伝わってきて、あたしの心臓は更に悲鳴をあげた。
エースはそんなあたしを後ろから抱き締めたんだ。

「ちょっエース!?」

「なぁ。レイナ聞いてくれ」

耳元にかかるエースの吐息に、あたしは目をぎゅっと瞑る。

「俺はよ、この世界にきていろんなことを学んだ」

「・・・」

「だいがくっていう勉強するところがある。バイトっていう仕事がある。でんしれんじっていう便利なもんがある。その他にもすげぇ便利なもんがある。この世界のビールは美味い。平和な世界がある・・・」

エースはつらつらとこの世界をのべ始めた。
なんで?なんで今そんなこと・・・

「ねぇエースっ!なんで今・・」

「いいからっ!聞いてくれ。・・・最初はすげぇ不安で・・・堪らなく帰りたくて。でも・・」

エースはそこで言葉を止めた。
震え出すエースの体。それが背中から伝わってくる。

今。彼は泣いているの?

「俺はっ・・・俺は。この世界でお前に会えてよかった。会えたのが・・・お前でよかった」

ありがとう。
と呟くエースに振り向くことは出来なくて、あたしは回された腕にぎゅっとしがみつく。


しばらくして
あたしは口を開いた。

「ねぇエース」

しかし反応はない。

「エース?」

あたしは体をずらし、エースの方へ振り向く。

そこには幸せそうに微笑みながら眠るエースの寝顔があった。

「エース・・・」

彼の髪にそっと触れた。
ふわふわしたそのきれいな黒髪を撫で
あたしはエースの胸に顔を埋め、涙をながした。

エース。


そのうちにあたしは眠りに落ちていったのだ。






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