「ふぅっ」
掃除機をかけ終わった俺は一息ついた。
最近俺は主婦化している。
「後はゴミ出しだな」
レイナがだいがくへ行っているあいだ、俺は俺の出来る事をする。
そう決めた。
レイナとメグミが海に連れていってくれたあの日から、俺の帰りたいという思いはますます強くなっている。
潮の香りに波の音。
世界は違えど、海はどこまでも同じだった。
それと同時に、覚悟をしなきゃならない
レイナとの別れ。
俺にはまだその覚悟が出来ていない。
俺はゴミの入った袋をひょいと持ち上げ表へ出た。
「確かゴミ捨て場は・・・あそこだな」
アパートの真ん前にあるゴミ捨て場を見つめ呟く。
あそこで俺はレイナと出会った。
その時、隣の部屋の扉が開く音が聞こえる。
「・・・あ。」
「おぅ。」
それは隣人のメグミ。
どうやら俺が出ている本を読んだ事があるらしく、やたらと俺に詳しい女だ。
「おはようございます!」
「おお。おはよう」
メグミはペコリと頭を下げた。
「今から出かけるのか?」
「はい♪大学です!」
彼女はニコリと微笑む。
メグミはレイナと同じだいがくへ行っているようだ。
「じゃあ気ぃつけていけよ」
「あ。あの。」
「ん?」
「少しお話してもいいですか?」
メグミはそう言って頬を赤らめた。
ゴミを捨てて、俺はメグミを部屋に入れた。
正直レイナに内緒で女を連れ込んでいるようで気が進まなかったが
メグミがどうしてもというので、この間食事をご馳走になった礼も込めて招き入れる。
「だいがく行かなくていいのか?」
「えへへ。サボっちゃいます!」
メグミはおどけて見せる。
「サボって平気なのかよ?」
「・・・だってエースと二人で喋りたくて」
頬を赤らめ下を向くメグミ。
俺は何だか恥ずかしくなって頬を掻いた。
それからは他愛のない話をした。
モビーの船員達の話で盛り上がる。
この世界でも、俺たちはすごく有名らしい。
メグミはキラキラとした顔でそう言った。
「あはは。なんだか沢山喋ったら、喉乾いちゃいました」
「あっわりぃ。今なんか持ってくるよ」
冷蔵庫を開けて中を覗けば、入っているのはアルコールと水割り用の水だけ。
そうか。俺とレイナにとっちゃあ、酒がジュース代わりみたいなもんだからな。
「メグミ!水で・・・」
そこで俺の言葉が止まる。
なぜなら、メグミがぎゅうっと俺を抱き締めていたからだ。
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