「うわ!お前更に顔真っ赤だぞ!?どうしたんだよ!具合悪いなら、帰るか?」
「だっ大丈夫だよ!せっかく来たんだし!」
あたしはさりげなくエースの手をでこからはずして言う。
「そう言えばあの騒音・・・じゃなくて、メグミは?」
「あー。なんか便所行くって」
「そっか」
ザザンと海が鳴く。
二人でそれを見つめ無言になった。
エースはいつか、海賊として海に帰るんだろうな。
「やっぱ海はいいな。どの世界の海でも」
エースは遠くを見つめぽつりと呟く。
あたしは意を決して言った。
「は、早く帰れるといいね」
するとエースは弾かれたようにこちらを見たあと、少し悲しそうに笑って
「・・・ああ。そうだな」
って言った。
そんなしんみりとした雰囲気に、簡易トイレから出てきた騒音が突っ込んでくる。
「エースぅ!今度は砂でお城作ってください♪」
砂でお城って
ガキかお前は。
隣のエースは、メグミに手を引かれ行ってしまった。
その背中が、向こうに帰る時のエースのように映ってしまう。
ほんとは
もっと一緒にいたいよ。
出来るならずっと・・・
あぁ。あたしはやっぱり変になったんだ。
海で一通り遊んだ後は近くにあるファミレスに寄った。
「今日は私がどどーんっと奢ります!先輩、エース!たっくさん食べてくださいね♪」
「サンキューな!メグミ!」
「あー。うん」
奢ってくれるのはありがたいが、お前の運転テクのおかげで食う事もできなそうだよ。
ここで腹一杯食ったら帰りの車ん中でリバース確定だよ。
あたしはそう思って、水だけ飲んだ。
エースはというと、なんか色々頼んでいてそれをガツガツ食っている。
お前すげぇな。あの運転でよくリバースしねぇな。
変に感心していたら、エースが"食いながら寝る"スキルを発動させ、寝てしまう。
「きゃあ♪生で見れたぁ!」
メグミはそれをきゃっきゃっと見つめていた。
実質二人になったボックス席で、あたしとメグミは無言だ。
「それにしても、夢小説みたいな事ってあるんですね♪」
口を開いたのはメグミ。
ゆめなんちゃらがどーのこーのと話しているが、あたしにはさっぱりだ。
適当に相槌を打っていれば、メグミの顔が悲しそうに歪む。
「私、エースに会いたかったんです。漫画で見ててすっごくかっこよくて・・・。ずっと漫画越しに応援してたんです。彼の事。・・・でもエースがあんな風になるなんて」
「あんな風?」
あたしがメグミの言葉に反応すれば、彼女はハッとして顔を上げた。その目は確かに潤んでいる。
「あ。先輩知らないんですか?」
「あたしは漫画読まないから。エースが、その、漫画のキャラだって知ったのも、つい最近だしね」
「そうですか」
目を伏せるメグミに、なんか嫌なものを感じあたしは口を開く。
「あんな風って・・・エースは」
そこでエースがムクリと起き上がったのだ。
「わりぃ。寝てた。」
寝ぼけ眼の彼が言った。
それからファミレスを後にして、あたし達は帰路につく。
運転は相変わらず最悪で、ガタガタと揺れたりぐわんぐわんしたり。
でも、あたしがリバースすることはなかった。
メグミの言葉が回る。
エースがあんな風になるなんて・・・
でもあたしにそれを聞く勇気はなかった。
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