「はは・・おや」

「そっ!まぁもう赤の他人だけど」

彼女はケタケタ笑っていた。

しばらく無言が俺達を包んでいたけど
それを破るように語りだしたのはレイナ。

「あたし・・・むかし、野菜炒め作ったの。あの女に食べてもらいたくて。まだあたしが四歳位の頃かなぁ」

「・・・そうか」

「今日みてぇにくっそ不味い野菜炒めでさぁ。でもあの女は美味しかった。ありがとうって・・・今日のエースみたいに笑ったの。そんときは、あたしにとってまだ母親だったんだ」

「・・・」

「そのあとすぐに父親が失踪してね。あたしとあの女の二人暮らしが始まって。あの女は段々・・・母親からただの"女"になってった」

レイナが持っていたビールの缶をきゅっと握った。ペコッと缶がへこむ音がして
彼女は唇を噛んだんだ。

「毎日、毎日。家に帰ればあの女と知らない男が下品に笑ってやがった。それがムカついて、ムカついて。でも子どもだったあたしは、そこから出て生活なんかできるわけないって・・・我慢してた。あれはあたしが中学二年の時だったかなぁ」

レイナはアハハッと自嘲気味に笑う。
そのあとビールをぐいっと煽ると、乱暴に口の端をぬぐった。

「学校で、上履きが無くなったの。あの女があたしの同級生の父親と出来てるって噂されて・・・それでいじめられてた。上履きはもう履けないような状態で見つかったなぁ。だからあの女に上履きを買ってくれって頼んだんだ。」

レイナの手がカタカタと震え始めた。
俺は見ていられなくなって、その手を握ろうと手を伸ばす。
しかしそれは次の彼女の言葉により、叶わなかった。

「アイツさ、あたしに何て言ったと思う?『黙れ。うるさい。お前なんか産まなきゃよかった。金が欲しいならてめぇで稼げ。女なんだから身体でもなんでも売ればいいだろうっ』って言いやがった」

俺は

彼女の顔を見ることすら出来ずにいた。

「あたしは家を出たよ。大体、産んでくれなんて頼んでないし。邪魔なら消えてやるって。それからは、いろいろ大変だったよー。オヤジに狙いつけてホテル誘って・・隙みてオヤジの財布から抜いたことだってある。あとは・・・」

「もういい。わかった。なんも言うな」

俺はいつの間にかビールの缶を握りしめていた。
缶の中に残っていたアルコールがポタポタと滴になって滴り落ちる。

「うっわ。おまっ。ビッチャビチャじゃねーかよ!!待って今タオル・・・」

そう言って立つレイナの腕をグンッと引いた。
そのまま強く抱き締めれば、レイナは驚いたように俺の名前を呼んだ。

「ごめんエース。なんか胸くそわりぃ話しちゃったね」

「・・・俺こういう時なんて言ったらいいかわかんねぇんだ」

「アハハッ。意外とウブなんだね。あんた」

「うるせぇよ」

レイナはしばらくすると、自ら離れた。
俺はスッと腕の力を抜く。
向かい合った彼女の顔は笑っていた。

「高校も、大学も。自分でなんとか頑張ってきた。あたしね、ちゃんと生きるのが目標なの。あの女から生まれてきたけど、あの女みたいにはなりたくない。ちゃんと大学卒業して、ちゃんと会社に入って、イケメンと結婚してさぁ!」

「・・・レイナ」

「でもね、フッて思う時があるんだ。あたしにもあの女の血が流れてるんだって。」

そんなレイナに自分が重なった。
俺には鬼の血が流れてる。
あの忌まわしき俺の父親の血が・・・。

「レイナ。俺のオヤジは、『誰から生まれようと、人は皆海の子だ』って言ってた」

「海の子?」

「ああ。オヤジは本当の親父じゃねぇんだけどよ。俺を本当の息子みてぇに可愛がってくれる。俺は本当の父親が嫌いだ。その血が流れてるって思うと、いっつも嫌になる。でもその言葉に救われてんだよ」

レイナは目をぱちくりさせた後、ぷっと吹き出す。

「エース。あんた、そのオヤジさんのこと大好きなんだねぇ!」

「え?」

「だって、目がキラキラしてるし!」

レイナはファザコンーっていいながら、笑っていた。
俺はなんだか恥ずかしくなって頬を掻く。

「いいなぁ。そのオヤジさんに会ってみたいかも!会って話したい!」

「オヤジはきっとお前を気に入るぜ!マルコやジョズだって!みんな、みんな大歓迎だ!」

「なんかすっごい楽しそう!エースの世界に行ってみたいかも!」

「・・・一緒に来るか?」

俺がそう言えば、レイナはキョトンとした後大声で笑った。

「あっはっはっは!!!もしさ、あたしがエースの世界に行ったらこっちで漫画に登場したりすんのかな!?」

人気キャラになったりしてー!
と言いながら、ビールを煽るレイナを見て、俺は眉を寄せる。
本気でいってるんだぜ?俺は・・・。
連れていけるなら、お前と一緒に帰りたい。
でもそれを口にする事は出来なかった。




prev next

back






「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -