あれからファミレスで軽く食って
家に帰って
あたしはベッドの上で寝転んだまま考えていた。

エースはあたしが怒ってるものだと思い、話しかけてこなかった。
テレビの中の乾いた笑い声だけが響いていて、フッと視線を移せばエースはテレビを見ながら寝ていたのだ。


呑気な野郎だ。
あたしの頭は破裂寸前なのに。
ワンピースがしまわれた鞄に目を移して考える。

結論が出るはずもない。


気付けばもう夜。
電気もつけない部屋には、テレビの明かりと声と
エースの寝息だけが響いていた。
パチリと電気をつけて、あたしはキッチンへと向かう。

「夜どうしよう。」

冷蔵庫の中身をみつめてぼんやりと。
その様子はまで夢遊病の患者のようだと自分自身でそう思った。

「・・・レイナ?」

その声にビクリとして後ろを振り向けば、欠伸を一つしながら腹をボリボリ掻くエースが立っていた。
その様子にため息をつきつつ、あたしは冷蔵庫に視線を戻す。

「先にシャワー浴びておいでよ。タオルはその辺にあるから。下着と着替えは畳んで置いてある」

早口でそれだけ言えば、エースは困ったような声でおぅ。と言った。

しばらくしてシャワーの音が浴室から聞こえてくる。
その音を遠くに聞きながら、あたしはまだ冷蔵庫の中身をつめ続けていた。

エースが風呂からあがって、あたしは無言でレトルトのカレーを出した。

「あたしシャワー浴びてくるから先食べてて」

「あ、おぅ」



ザーッと頭からシャワーを浴びてあたしは壁に額をつけた。
あー。エースになんて言おうか。

あなたは漫画から飛び出してきたのよ♪
いや。違う。
あんたは漫画のキャラクターでございますよ。
うん。なんか違う。

あたしはシャワーを止める。



風呂から出れば、エースがあたしのハイボールを勝手に飲んでいた。
その視線の先にはテレビで、海パンいっちょのよしおが"そんなのかんけーねぇ"って言っている。
あぁ。そう言えたらなんて楽な事か。

あたしはタオルで髪を拭きながら、リモコンでテレビの電源を切った。

「レイナ!」

エースは弾かれたようにあたしに振り返る。

「エース。話があんだけど」

あたしはそう言って、キッチンにある椅子に腰かけた。

タバコに火をつけると、鞄からあの本を取り出す。
エースは頭に?マークを浮かべながら、向かいに座った。

「・・・レイナ。今日俺がだいがくに行った事怒ってんのか?」

「違う。・・・・・これ見てよ」

あたしが机の上にワンピースを出す。

「これは誰?」

あたしは表紙に描かれたエースを指差す。

エースはハイボールを飲みながら

「ん。俺だな」

って答えたあとに

「ブホッ!!!!」

ってハイボールを吹き出した。
松田のワンピースはエースが吹き出したハイボールまみれだ。
明日新しいの買って返そう。

「おぇっ!ゲホッ!!なんで俺が!!?」

口を手の甲でぬぐい、涙目のエースはワンピースを見つめている。

「知らないよ。あたしが聞きたい」

あたしは台拭きでワンピース本体をごしごし拭く。

エースは震える手でワンピースを手に取ると、パラパラ捲ってそれを凝視していた。

「ルフィだ」

「ルフィ?」

エースは麦わら帽子を被った少年を指差した。

「こいつ。俺の弟なんだ」

「おとうと!?」

エースが兄貴。
この麦わら君は苦労してるに違いない。
あたしは麦わら君に心底同情した。

「・・・ルフィ・・オヤジ・・・皆・・・なにやってっかなぁ?」

エースは漫画をパラパラめくりながら、目を細めてポツリと放った。
あたしはそれを見て、こいつは"本物"なんだって確信する。

「エース・・・」

声をかければ、エースは多分潤んでいるであろう目を乱暴に手のひらでをこすってニカッと笑い

「見せてくれてサンキューな」

って言った。

「エース・・・」

それを見てあたしは胸を締め付けられる。
そうだよね。帰りたいよね。
なんでこうなっちゃったかなんてあたしはわかんないけど
エースの気持ちは痛いほどわかった。

「エース!!飲もう!!」

「は?」

「こーいうときは飲んでとっとと寝るに限る!!」

あたしは冷蔵庫からありったけの酒を出して、机に並べた。

「レイナ」

あたしは缶のプルタブをあける。
小気味良い音と共にあたしはビール一気に煽った。

「さーっ!!!じゃんじゃん飲めー!!」

あたしが笑えば、エースはきょとんとした後
いつもの無邪気な笑顔で笑った。





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