「つまり、」
あたしは正直言ってこんなこと認めたくない。
けど・・・
「つまりレイナはこの世界はおれがいた世界じゃねぇって言いてぇんだよな」
あたしが言おうとしてたことを、エースがボソッと言ったのだ。
「だってそれしか考えらんないしさぁ。うん。」
あたしは異世界とか、異世界人とか信じるたちじゃあないけど。
こう考えれば納得がいってしまう。
エースが嘘をついてるようには見えない。
多分彼の言ってる事は本当なんだ。
あたしは野生の勘的なヤツでそう思った。
黙る空気。あたしはいたたまれなくなって、台拭きで落ちたタバコの灰をしつこいほど拭いていた。
「ねぇエース」
中々喋らないエースにしびれを切らし、あたしから口を開く。
彼は俯いたまま動かない。
あー。相当ショックうけてんなー。この人。
確かに不安だよね。自分の知らない土地で、自分の知っている常識が通じない。
うん。あたしなら、発狂してるよ。
そうだ。ケータイでググってみるか。
「エース・・・今からケータイでググってみるよ。何かわかるかもだし。ね。だから元気だして・・・」
そこまで言ったところで、エースの方から大きなイビキ。
え。
もしかして
この流れで?
この人・・・
エースは寝ていた。
「・・・」
人が多少心配してんのにも関わらず、当の本人は真面目な流れで居眠りですか。
ググるのやめよう。なんか、バカみたいだ。
あたしは近くにあった雑誌を丸めると、おもっくそ力を入れてエースの頭をぶちかました。
「いってぇ!!!何事だ!!?」
「何事だ!!?じゃねぇよ。この話の流れで寝るかふつー」
「わりぃ。難しい事考えてたら、眠くなっちまった!」
にかっと笑うその顔に悪びれた様子はない。
でも、これ以上怒る気にもなれずため息を一つ。
「まー。でも」
エースは何故かあたしが食べようと思って買ってきたキットカットを、勝手に開封しながら呟く。
「あれだな。さすがはグランドライン。何が起こるかわからねぇもんだ。まさか異世界に飛ばされちまうとは」
キットカットをサクサク食べながらエースは続ける。
いや。まて。お前がサクサクしてるのは、あたしのキットカットだ。
「ぐらんどらいんってそんなに変な場所なの?」
「あぁ。いきなり天候が変わるのは日常茶飯事。あり得ねぇ事がへーきで起こるのが、グランドラインだ」
キットカットを五秒ほどで平らげると、次はあたしが食べようと思って買ってきたチップスターを勝手に開封する。
「へぇ。あたし絶対エースがいた世界には行きたくないわぁ」
「楽しいぜ?海賊もいるし、何より自由だ」
そう言って不適に笑う彼の手には、既に空になったチップスター。
あたしは頭を抱えて席を立った。
「何処いくんだ?レイナ」
「寝るの。なんか猛烈に疲れたから」
ビーズ暖簾をくぐってあたしはベッドにダイブした。
これからどうしよう。
とりあえず、エースが帰れる術を探さなきゃならないな。
あたしが?めんどくせぇ。
・・・エースはどうするんだろう。
ここを出て生活するのかな?
でも、何も知らないエースが一人で生活できるとは思わない。
うーん。
あたしはしばらく考えた後・・・。
体を起こして
ビーズの暖簾越しに彼を見つめる。
エースは机に頬杖をついて、物思いにふけっているようだった。
その横顔はほんっとうに綺麗そのもので、あたしは思わず見とれてしまう。
あぁ。何も言わなきゃあ本当イケメンなのになぁ。
あたしは覚悟を決めてベッドから降りた。
「エース」
「ん?」
「買い物行こう。買い物」
あたしは言った。
エースは目を丸くしてこっちを見ている。
「あんたの日用品買わなきゃだから。要らないっつうなら買いに行かないけど」
「え?」
「だぁからさ。あんたが元ん所に戻るまでここにいていいっつう意味。色々ないと不便でしょ?」
あたしはここにエースを置く事を決めた。
出てけっていうのは、簡単だったけど・・・
身の上や事情まで聞いて、出てけっていうのは忍びない気もするし・・・
この人にはあたししかいない。とかいう変な意地っていうか、なんていうか。
まぁ、あたしはダメな女の典型だ。
エースはスッと立ち上がると、あたしに近寄ってくる。
「え。ちょ。なにさ?」
するとエースは真剣な顔で
「お世話になります!!」
と深くお辞儀したんだ。
「あ。どうも恐縮です」
あたしはあまりに綺麗なお辞儀に恐縮した。
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