「ゴア・マガラその、もの?」
チチカナの言葉にルピタはゆらりと動揺した。
「あの方の昔話を聞いた、あくまでわたくしの予想ですわ。あの方から感じるものは計り知れない程の闇と、憎悪。それはまるで」
そこまで話しかけたチチカナの瞳に映るのは、ルピタのいつもの笑顔だった。
「ルピタ?」
「それでも私の弟だって、昨日見た夢でわかったの。だから、教えてあげたいことも沢山あるし、もっとちゃんと向き合いたい。仮にそうだとしても・・・。大丈夫!・・・大丈夫。」
確信のない、言い聞かせるような大丈夫。けれど、そのどこかに僅かな確信がある大丈夫。でもあった。
チチカナはふわりと笑い
それでこそルピタですわね。
と口元を隠して笑った。
「さぁて。仕事が沢山だよ!チチカナ!リィリィ!この世界にとって狂竜病は未知のものだからね・・」
「そうですわね」
「にゃー!ついにボクの知識が役立つ時がきたんだにゃ!」
意気込む二人と一匹の元へ、あの独特な笑い声が近づいてくる。
「グラララ!穏やかな日々ってぇのは続かねぇもんだな!」
「オヤジさん!」
「申し訳ありません。勝手な事を致しました。」
チチカナがそう言って眉を下げると、白ひげは豪快に笑った。
「グラララ!!気にする事じゃあねぇ!俺ぁおめぇらの世界も見たことがあるが、全てを知ってる訳じゃない。そのヘンテコな病気に関してもおめぇらが良く知ってることだ。・・・このまま放って置いたらやべぇことになるんだろ?」
白ひげの問いかけに二人と一匹は眉を寄せて頷いた。
「だろうなぁ。俺も長く生きてきたがそんな事例は初めてだ。だからこそおめぇらに最良の選択をさせる。それが俺の判断だ。ルピタ!」
ルピタは白ひげに名を呼ばれ、ハッと顔を上げた。
「おめぇの弟が何者であれ、俺はおめぇが望むならこの船に家族として迎えるつもりだ」
「オヤジさん・・・」
「この件にティーチが絡んでる事は確実。全面戦争は免れねぇだろう。グララララ!そんなこたァ気にする必要ねぇ!おめぇの弟はちょいと寄り道してるのさ!全て片付けて、迎えようじゃねぇか」
そう言って笑う白ひげに、ルピタは唇を噛み締めた。
泣きそうに顔を歪めたルピタの頭に優しく乗る大きな掌。
それは暖かい白ひげの掌だった。
「大事な娘の弟だ。俺にとっても家族だ。こまけぇ事考えるな」
瞬間。ぐしゃぐしゃと顔を歪めた
ルピタの瞳からは大粒の涙が溢れだした。
「オヤジの意見に賛成だよい」
ふと顔を上げればそこにはルピタを見つめる
優しい家族たちの眼差し。
「まぁ、このイケメンサッチ様が素敵で恰好いいお兄様になってやるぜ!」
「にゃ。ウザイにゃ。最っ高にウザイにゃ」
「ひでぇ!!この猫ひでぇ!!」
「まぁとにかくよ!お前は一人じゃねぇ。俺達がついてる」
「へっ。数年前まで人斬りナイフみてぇなガキだったエースが言うようになったねい」
「うるせぇ!俺だって成長すんだよ!!」
「ウフフ。皆さん頼もしいですわ」
そんな皆を見て更に涙腺が緩むルピタは満面の笑みで泣いた。
ポロポロと頬を伝う雫を拭うと
「皆さん。ありがとございます!!」
大きな声でそう放った。