「それでは、よろしいですね?」
モビーの甲板にチチカナの声が通る。
その提案に辺りはざわめいた。
提案。それは
チチカナ、ルピタの2名で本部へと上陸するというものだった。
「いくらなんでも危険じゃねぇかよい。」
「ウフフ。虎穴にはいらんば虎子を得ず。ですわ」
「でもよ・・・」
「皆さんは船で待機を。何かありましたら必ずお知らせ致します。」
「あくまで話し合い。それを分かって貰えるようこちらでも全力で戦闘は避けます。万が一の場合に備えて貰えれば・・・」
いつもヘナヘナと笑っているルピタの真剣な眼差しにクルーは黙りこくる。
「分かった。」
そこで一声あげたのは白ひげだった。
「オヤジさん・・・」
「ここは娘達を信じよう。ただ、何かあった場合。容赦なく潰させてぇ貰う。いいな!!息子共!!」
白ひげそう言えば皆意を決したように頷いた。
こうしてチチカナとルピタは
スモーカーが乗る海軍船に乗り
その後をモビーディック号が着いていくことになった。
その夜。
いつものように宴が行われた。
そこには、海軍であるスモーカー、部下の海兵。
そして、ルフィとナミの姿があった。
「ちっ!なんで海賊なんぞの宴に・・・」
「いいじゃないっすかぁ!中将!」
「今は楽しく!ねっ!」
酔っ払った部下の姿に舌打ちを1つするとスモーカーは杯に映る自身の顔を見つめる。
思うのはおかしくなってしまった自分の部下達と、これからのこと。
「ちょっとーー!お酒が足んないわよ!!」
「ナミー!おめぇ顔真っ赤だぞ!?」
「うるさいわねぇ!ひっく・・・」
ナミは空き瓶を片手に真っ赤な顔で周囲を睨みつけている。
「おねぇさん。飲みすぎですよー」
そんなナミに酒瓶を渡したのはルピタ。
「おお!ルピタ!ナミが顔真っ赤なんだよ」
「んんー。飲みすぎですね。やっぱ」
「飲まなきゃやってらんないのよ・・・ううっ」
「わわ!ごめんなさい!!泣かないで!そうですよねぇ!飲まなきゃやってらんないっすよねー!じゃあ私も飲みます!!見てください!一気しま」
そう言って一気飲みしようとするルピタに強烈な拳骨が落ちた。
「てめぇは飲むな!!うぜぇから!!」
「あ。エース!」
「いだァああ!!エース隊長!!痛いです!私も人間なんですよ!!」
拳骨を落とした主はエース。
そんなエースとはアラバスタで会っているナミは、ああ!と声をあげた。
「ルフィのお兄さん!お久しぶりですね!」
「ああ。こりゃあどうも。いつも弟がお世話になって・・・って、てめぇーーー!一気してんじゃねーー!」
エースとナミが挨拶をしている間に、後ろでは酒瓶を一気飲みするルピタがいた。
ワイワイがやがやとする中。
未だ杯に口をつけようとしないスモーカーの隣に、いつの間にかチチカナが座っていた。
「ウフフ。お飲みになられませんの?」
「うぉっ!!?てめぇいつの間に」
「ありがとうございます」
チチカナのいきなりの礼に、スモーカーは呆気にとられた。
「海軍と海賊。敵対する立場でありながらわたくしたちの話を信じ、そして掛け合ってくれたこと感謝いたしますわ」
「・・・ふん」
「立場は違えど、皆同じ人間なのです。立場という枠は、時に障壁になりましょう。」
「随分生意気な事言うじゃねぇか。小娘」
するとチチカナはクスリと笑った。
「そうですわね。でもわたくしは思うのです。」
その切れ長の瞳がスモーカーへと向けられた。
「どうして、どの世界でも人間が感情を持ち、言葉を喋れる生き物なのか。それは分り合うためだと」
そう言うとチチカナはまたふわりと笑い、立ち上がる。
「しかし、それが争いを産む原因にもなってしまった事はとても悲しい事ですけれどね」
それだけを告げチチカナは宴のざわめきへと戻っていった。
スモーカーはしばらく彼女の姿を見つめた後、口をつけようとしなかった杯に口をつけ
その注がれた酒を飲み干したのだった。