脚の怪我はすっかり良くなった。
自力で歩けるようになった頃。その夜、ルーカスはやっと女に話しかける事が出来た。
『あの・・・』
『はい』
『怪我がすっかり良くなった。・・・君のお陰だ礼を言う』
ペコリと頭を下げたルーカスに女はふわりと笑って、ある方向に指を指した。
『あちらに洞窟があるでしょう?あの洞窟を抜ければ上へ出られる筈です。今日はもう日が落ちてしまって危険なので、明日の朝発ったらいかがでしょうか?』
『・・・ああ。ありがとう。あの・・』
ルーカスはずっと女に謝りたかった。
しかし今の今までそれを告げることすら出来ずにいた。
勇気を振り絞り、口を開く。
『君に謝りたかった。怪我の手当てをしてくれたのに・・・あんなことを言ってしまって』
『・・・え?あ、いいんです!』
『全然良くない!!本当にすまなかった。咄嗟の一言で君を傷つけてしまった』
ルーカスは深々と頭を下げる。
女はそれを慌てて止めた。
『やめてください!私なんかに頭を下げるのは・・・!』
ルーカスが頭を上げれば、そこには泣きそうな顔をした女がこちらを見つめている。
やはりルーカスの顔がゆでダコのようになるのに時間はかからなかった。
『聞きたいことが沢山あるんだ』
小さな焚き火がパチパチと火の粉を上げる。
火を絶やさぬよう枯れ木を投げ入れるルーカスがポツリと呟いた。
『君の名前を教えて欲しい。』
『私の、名前ですか?』
『ああ。』
焚き火越しの女の顔が驚いた後、瞳を伏せる。
『私の名はリエッタ・・・』
『リエッタ・・・』
女の名はリエッタと言うらしい。
ルーカスは聞いた名を呟いて、また枯れ木を投げ入れる。
『どうしてこんな場所に?』
核心を突く。
こんなか細い女性がなぜこの危険な未開の地に・・・?
リエッタはしばらく黙って震えた声で呟いた。
『分からないんです。記憶が・・・』
そこまで言って言葉を伏せた。
きっと余程の事情があったのだろう。
ルーカスはそれ以上を聞くのを止めた。
次の日早朝。
ルーカスは荷物を纏め立ち上がる。
『お気を付けて』
そう言って笑ったリエッタにルーカスは意を決して口を開いた。
『一緒に来ないか?』
リエッタは目を見開いて、すぐに首を横に振る。
『ダメです。私は行けない』
そんなリエッタに差し出されたのは
ルーカスの大きな掌だった。
『行こう。一緒に』
ルーカスには、ただ漠然と
リエッタと共に行きたいという思いが募っていたのだ。