小説 | ナノ

「どうされました?」

いつまでオレンジ色を眺めていたのだろうか?
イケスターの声で我に帰る。

「え、あ!いや!綺麗だなって!」

そう言って泣きそうなのを必死で隠せば、イケスターは少し意地悪そうに笑った。
な、なんだ!?やんのかこのやろーー!!
と思いつつも、その意地悪そうな笑顔が
やけにツボだったりする。

「エース君帰るねぇ!」

「お!奈々ちゃんもう帰るのか?外まで送るよ!」

あの女の人は常連さんなんだろうな。
イケスターとやけに親しげだ。
というかイケスターの名前が
エースっていうことを同時に把握する。

気づけば、その常連さんが
私を除いた最後の客だったらしく
店内には私しか居なかった。
なにこの空間。
めっちゃ寂しすぎる。

私は軽く泣いた。

「大丈夫?」

ハッと後ろを振り返れば、イケスター改めエースさんが後ろにいた。
涙目で、きっとつけまもラインもシャドウもぐちゃぐちゃな顔をひきつらせる。

「泣いてたんですか?」

「な、泣いてません!!」

咄嗟にぐいぐいと目を擦ったところで、しまった!!と思った。
しかし時すでに遅し。
目の回りがパンダマンになった。
それを見たエースさんが大声で笑う。

「ぷっ!あははは!!ぱっ、ぱんだみてぇ!」

「ハッ!!パンダじゃないです!!」

腹を抱えて大笑いするエースさんに、多少の殺意を抱きながらも反論すれば
わりぃわりぃと、未だに止まらぬ笑いを耐えながら謝られた。

「っごめん。あまりにも面白かったから」

「し、失礼ですね!!」

「悪かったよ。もう笑わねぇから。っぷぷ!」

「笑ってんじゃん!!」

さっきまでと全く違う、少年のような態度。
それがまた異様にツボだったりする。

「あ、もしかして閉店ですか?」

「いいや?まだ大丈夫。ゆっくりしてきなよ」

エースさんはそう言って笑うと、カウンター内でカチャカチャと洗い物を始める。
私のせいで店閉められないのかな?
なんて罪悪感が沸いてきたので
スクリュードライバーを一気に煽った。

「あ、チェックいいですか?」

私が財布を取り出しながら言えば、エースさんが待って!と言った。
何かと思えば、頼んでもないのにカクテルを作り出す。
ま、まさかぼったくられる!?
なんて不謹慎な事を思った私の前に出されたのは見たこともないカクテルだった。
淡いピンクから紫へ、グラスの下にかけてグラデーションになっていく真っ青なブルー。
とても綺麗で
思わず口に出てしまう。

「こ、これなんてカクテルですか?」

「ん?まだ名前はねぇんだ。今作ったから」

い、今つくった!?即興!?アドリブ!?
この人はカクテルの神かなにかなのかと思う。

「名前は?」

「へ?」

「あんたの名前!」

エースさんにいきなり名前を聞かれて、間抜けな返答を返してしまった。

「あ、えと。市川サキ、です。」

「ふぅん。このカクテルの名前決まった」

「え?」

「このカクテルの名前はサキ。あんたをイメージして作ったからさ」

ああ。だめ。
だめよ。駄目!!
そんな真剣な顔されちゃ・・・

ほれてまうやろ!!!!

私のなかにチャン・カワイが降臨した瞬間だった。

そんな私を他所にエースさんはカクテルの説明をしだした。

「あんたが今このブルーにいるとしたらさ、後はどんどんピンクになってくだけだから。だから、泣くなよ」

そう言ってグラスを指差す綺麗な指。

ほ、ほ、ほれてまうやろ!!!!

そして本日二度目のチャン・カワイ。

あれだけ好きで、金だってなんの躊躇もなく出してきた
元彼のエンコークソ野郎のことなんか
脳内のどこにも居なくなっていた。

私の脳をしめるのは、目の前のエースさんだけ。

その指に触れられたい。
そしてその腕に抱き締められたい。
あわよくば、キスしたい。
そしてもっと言えば、抱かれたい。

そんなふしだらな思いまでしゃしゃり出てきてしまう。

顔が熱くなるのを感じて、それを隠すようにカクテルを飲めば
ほんのり甘くて、ホロリと苦いアルコール独特の苦味。

「どう?」

「お、美味しいです」

「よかった」

そこで見つめあった瞳が逸らせない。
私は逃げるようにカクテルを飲み干すと立ち上がる。

「おいおい。大丈夫か?それ結構アルコール高いぞ?」

「だ、大丈夫です!お、お会計!」

「ん?ああ。いいよ。今日は俺からのサービス」

「で、でも。」

「いいから!もし気に入ってくれたら・・・また来てよ」

ほ、ほ、ほ、ほれてまうやろ!!!!

本日三度目(自重)

フラフラする足取りは
きっとエースさんのイケメンマジックのせいだって思った。
私はまだ熱い顔をエースさんに向けることなく扉に手をかける。
そこで異変に気づいた。
手がガタガタと震えるのだ。
やばっ、最後の一気が
今になって回ってきたらしい。

目の前がふわりと歪む。
そしてくるりとひっくり返る。

「っあぶねっ!!」

つぎに体に来るであろう衝撃が来なかったのは
エースさんに抱き止められていたからだと分かるのに、時間はかからなかった。

「っだから言ったろ!」

そう言うエースさんの必死な顔が
霞んで見えた。

こんな漫画のような展開に
思わず内心にやけてしまったのは
いうまでもない。

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