小説 | ナノ

このまま帰るのか。
そして決まって缶詰の焼き鳥つまみながら、焼酎をロックで・・・。
そんなことを思っていたら、帰ろうとする私の足が止まる。
明日給料日かぁ。

「・・・よし」

決めた。
私は財布の中の手持ちを確認すると、ブンブン頭を降って一人で納得した。
今夜はとことん外飲みしてやる!
そうだ!ホスト行こう!
初回なら安くすむ!

今夜だけでいいの。

イケメンに囲まれて
お酒を飲みたいのよ。

「さぁて。何処に入ろっかなぁ」

繁華街にいくつもあるホストグラブ。
最近は初回1000円だよーん。とか言う店が多いからな!
こうなった初回はしごでもしてやるかな。
なんてニヤニヤしながら歩いている私の目に、ふっとネオンの看板が入った。

「んん?バー・スペード?」

それはポツリとあった。
ポツリとあるくせに、妙に存在感がある
ただのバー。

最近できたのか。それとも気づかなかっただけか・・・
とにかく初見だったんだ。

たまにはバーでしっくり、しっとり飲むのも悪くないかも。

マスター。失恋した私に似合うカクテルを。
かしこまりました。

なんちゃって!

ホストを止めて、私はそのバーに入ることにしたんだ。
シックな木製のドアを開けば
そこには

女、女、女。
まるでホストグラブのように女の客しかいない。

ふっとカウンターを見れば、シェイカーを振る若い男。
バイトなのか?と思いきや、どうやら店内にはそいつしかおらず
まさかのマスターだということが伺える。

マスターってこう、もっと渋味のある
人生経験豊富な艶男を想像していたのだが・・・
その若マスターがふって顔を上げてこちらを振り向いた。

な、な、な!!!
まさかのイケメンだった。

癖っ毛の黒髪に
切れ長の瞳。
通った鼻筋に綺麗な肌。
そこら辺のホストよりイケメン君がこちらを見てにこりと微笑む。

「いらっしゃい。」

「え、あ、はい。いらっしゃいました」

いきなりのイケメンスマイルに、私は動揺してへんてこりんな返答をしてしまう。

「あはは。カウンターにどうぞ?」

私はおずおずとカウンターのはしっこに座る。

「ご注文は?」

「え!」

イケメンマスター略して
イケスターは、メニューを差し出してまたにこりと笑った。
その笑顔はまるで太陽のように眩しくて
私みたいな負のオーラ漂う女は、その光に負けて溶けてしまいそうだ。

「そ、それじゃあ、えっとぉ」

おずおずと私は
安めなスクリュードライバーを注文。
やっぱり、酔っていても
お金の事がよぎると覚醒してしまうものだ。

それはすぐに出てきた。

オレンジ色の綺麗なカクテル。
まるで魔法のように素早く出てきたカクテルを一口飲めば
なんだかどっと虚しくなってしまった。

店の雰囲気も合わさってか、なんだかナイーブな気持ちになって
泣きそうになるのをグッとこらえる。
こんな風になるなら、黙ってやっすい焼酎片手に
この間借りてきたアメトークのDVDでも見てれば良かった。
等と後悔だけが走り抜ける。


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