小説 | ナノ

「はぁ。めっちゃ疲れた。」

部長に残業という嫌がらせをされた私が退社したのは七時過ぎだった。
しかも朝はあんなに晴れてたのに
土砂降りの雨。
傘もないし、何もない。
会社の入り口で落ちてくる大量の雨粒をぼんやり眺めていれば、ケータイのバイブがブーブーとやかましい。

この時間にどーせ掛かってくるのは、酔っ払った実家のカーチャンからの愚痴ぐらい。
どうせ出たって
早く結婚しろだの
お見合いしろだの
孫見せろだの
トーチャンがパチスロで負けただの
くだらないことだ。

シカトしようとしてもブーブーやかましいケータイを鞄から取り出して
ギョッとした。
何故なら相手はエースさんだったから。
内蔵が全て飛び出しそうになりながらも、震える手で通話ボタンを押してみる。

『もしもし?サキ?』

相変わらずのイケメンボイスで名前を呼ばれて
内蔵が喉まで出かかった。

「あ、は、あの!そうです!」

『まだ仕事中だったか?』

「いえ、今終わったとこで・・・」

『まじか!んじゃあさ今から店来いよ!会わせてぇ奴がいるんだ!会社何処?雨やべぇだろ。迎えにいく』

「へ!!?あ、はい!!」


神様はいるんだ!
嫌なことがあったときは
きっといいことがあるんだよ。
ありがとう神様!!!

私は生まれて初めて神を信じた。

流石に会社までは悪いので、近くのコンビニで待つことにした。
雑誌コーナで女性誌を立ち読み。

『今年こそキメる☆イケメン彼氏の作り方

とかいう見出しの女性誌を熟読してみた。

そこには街で見かけた素敵なカップルのスナップ写真と、馴れ初め的な記事が掲載されていて
正直リア充爆発して爆発しろと思ったけど、今からエースさんが来てくれるから
私もリア充だしね!と心の中で雑誌の中のカップルと張り合った。

しばらくすると一台の外車。
そこから出てきたのはエースさんだった。
イケメンはやっぱり外車なんだ。という変な納得をしつつその車に乗り込む。
その時店員や客が皆こっちを見ていたことに
優越感を感じられずにはいられない。

「待った?」

「い、いえ!全然!」

ナニコレ!
デートみたい!デュフフ!
と絶対口に出せないような笑いを心の中で響かせて
私はエースさんの運転する横顔をチラ見しては
ニヤニヤしていた。




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