ねぇ。
先輩。
私達ってどんな関係なのかな?
きっと綺麗な関係じゃないよね。

そうだよね。だって先輩には
私なんて足元に及ばないくらい、可愛くて綺麗で人気者の彼女がいるんだもん。

可笑しいよ。

ねぇ。先輩。


どうして私を抱いたの?




ことの始まりは、大学に入ってからだ。
志望校に落ちた私が、辛うじて入れた滑り止めの大学。
それは都会にある学校だった。
正直実家がある田舎から離れてまで、この大学に行く意味が私には分からなかった。
でも、親の強い要望で
私はわざわざ家賃の高い都心に独り暮らしまでしてこの大学に通うことになった。
私はいつもそう。自分の意見がない。
言われれば
はい。そうですか。
と流れに乗る。
自分でもおかしいくらいにね。


田舎から出てきた私には、都会という色が強すぎた。
皆流行りものを身につけ、地元には居なかったようなタイプの子ばかりで
私は目眩がしたのを覚えてる。
でも、そんな環境にもすぐなれた。
それが私の良いところでもあり、悪いところでもあるんだけどね。

生まれて初めてピアスをあけた。
生まれて初めて化粧をした。
生まれて初めて髪を染めた。

周りの友達に進められるがまま
私が勝手に歩き出す。


「サークル?」

「うん!っつっても活動といえば飲み行くくらいなんだけどね」

友達のりぃにすすめられたのは、サークルだった。
聞いたところ、学年関係なく友達の輪を広げよー的な目的のサークルらしくりぃも入ってるんだって。

りぃは可愛い。
学年でもトップに入るモテ子だ。
明るくて、人気者。
いっつも誰かに告白されてる。
そんなりぃが私みたいな子と仲良くしてくれてるってだけで
夢みたいだ。

大学に入ってから、私達は喧嘩もしたことない。
何故だか私がよく知ってる。
それは私が意見しないから。
何回かあったんだ。
それ違うんじゃない?って事。
でも私は何にも言わない。
りぃがそうだ!って言えばそうなんだよ。
だから、笑顔で話を聞くんだ。


それを仲良しっていうんだよね。きっと。

りぃに連れられて、サークル仲間が集まるバーへ。
それはお洒落なバーだった。
いつも集会はここを貸しきってやってるんだって
すごいよね。
もちろん。そんな所にいったことも、入った事もない私は戸惑いを隠せずにいた。

薄暗い店内にはお洒落な音楽が流れてて、
皆それぞれ色とりどりのカクテルを手に談笑してる。

「よー!りぃ!来たのか!!」

「うん!あ、友達も連れてきたよー!」

りぃがそう言って誰かと喋ってた。
俯いた顔を上げれば、そこには
黒髪で背の高い男の人。

「あ、なまえ!紹介するね!私の彼氏のエース!三年生なんだ」

「なまえっていうのか。よろしくな」


仄かに照らされた顔は整っていて
頬に残るあどけないそばかす。
それが先輩との初めての出会いだった。



りぃと先輩は最近付き合いだしたらしい。
二人はこのお洒落な雰囲気に良く合う
お似合いの二人だった。

「なまえってね、すっごくイイコなんだよ!いっつもりぃの話よく聞いてくれてね?」

りぃが先輩に向ける顔はすっごく輝いてて。
それを見つめる先輩の眼差しも優しい。

「いつもりぃが世話んなってるみてぇで、ありがとな」

「い、いえ」

そんな優しい先輩の眼差しが一瞬私に向けられた気がした。
一気に熱くなる顔。
きっと普段飲まないアルコールのせいにして、私は精一杯の笑顔を見せた。

集会という名の飲み会が終わって
私達は店の外へ。

「それじゃあーなまえまたねぇー」

「え?あ、うん。・・・」

りぃが呂律の回らない口でそう言った。
覚束ない足取りでふらふらと
先輩の腕に自分の腕を絡めながら
ふふって笑う。

「お前ほんと酒弱すぎ。なまえ。大丈夫か?
一人で帰れるか?」

「あ、大丈夫です」

「なによー!エース、わたしよりなまえの心配するわけぇ?あははっ!もう!嫌だー!」

りぃはそう言って上機嫌だった。
そんなりぃにごめんね。ありがと
って言って足早にその場を去る。

本当は、本当はね?
来たことない場所だから
帰り道わからないんだ。
でも、大丈夫。

ふって振り返れば、二人は仲良くネオン街に溶けていく。
私は暗い夜道に溶けていく。

見上げた月がやけに綺麗だなって思った。










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