幼い頃。
多分7つとかそんぐらいん時。
俺は街である少女に出会った。

たまたま通りかかったそこは
人通りの少ない裏路地ってやつで
そこにそれはポツンと建ってた。

古い書物を売る
古本屋だと思う。
記憶だと、古い本が沢山あったから。

そいつはそこでいつも店前を掃除してた。
綺麗な着物ってやつを纏って、大きなほうきで店前の落ち葉を掃く姿を
今でも鮮明に思い出す。
細くて、白くて、人形みてぇに綺麗な黒髪と瞳。
初めて目があって、そいつはふんわり微笑んだ。

多分俺と同い年位だったであろう
あいつに、俺はどうしたらいいか分からず逃げ出したっけ。

別にその路地裏に用はなかったが
それから毎日、そこの路地を通るようになった。
その度、そいつはやっぱりほうきで掃除してた。

でも、声をかけることも
俺はしなかった。
いや、出来なかったんだ。

あいつに会うと
ドキドキした。
あいつと目が会うと
心臓が悲鳴をあげた。

この感覚を、ガキの頃の俺に理解できるはずもなく。
初めての感覚に俺はどうしたらいいか悩んだっけ。
もしかして病気なんじゃねーかって
モンモンとしたこともあった。

そんなある日。
やっぱりあの路地へ俺の足は向かっていた。
古本屋の前で立ち止まれば、やっぱりそいつは何時ものように掃除してた。
でも、その日。
いつもと違う事が起こったんだ。
あいつが俺を見てにこりと笑うと
トコトコ小走りでやって来て
小さなメモ帳を差し出してきた。
戸惑う俺がそれに目を通せば
幼い字で、

こんにちわ。

ってかかれてたんだ。

『・・・なんだよ。喋れよ』

そんなあいつに俺が初めて言った言葉がそれだ。

するとあいつは、目を見開いた後少し困ったように
耳を指差した。
そして俺が持つメモ帳に

みみがきこえないの。ごめんなさい

って書いたんだ。

俺は幼いながらに申し訳ないって思って
急いでメモ帳に

ごめんって書こうとした。
でも、俺ってやつは
字をうまく書くことが出来なかったんだ。
じじぃに教えてもらった字を思い出して
ごめん。って書いたけど。
汚くて読めたもんじゃなかった。
けどあいつは一生懸命
俺が書いた字を目で追って
ニッコリ笑った。

そして

いいよ。

って書いた。


それから俺は少しずつ文字を書けるよう勉強した。
夜も寝ずに机にかじりつく俺を見て
ダダン達は
エースが病気だ!って騒いでたっけ。

1つ単語が書けるようになるたび
あいつとの会話が弾む。
紙の中で繰り広げられる会話が
幼い俺の唯一の楽しみになってた。


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